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横幹連合ニュースレター

<<目次>> No.011, Oct. 2007

巻頭メッセージ

活動紹介

参加学会の横顔

 
異分野融合-共鳴と破壊
 
*
 
横幹連合 監事
木村 忠正
 
◆【参加レポート】
 
第16回横幹技術フォーラム
 
【横幹連合に参加している
 学会をご紹介するコーナー】
 
日本バーチャルリアリティ学会

イベント紹介

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第2回横幹連合コンファレンス

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巻頭メッセージ

異分野融合-共鳴と破壊

 木村 忠正 横幹連合監事

  電気通信大学

 近年、日本では異分野融合、あるいは異分野連携プロジェクトが盛んに行われている。特に、既存の科学技術への情報科学・技術の適用、ナノテクノロジーにおける物理、化学、生物、医学などの種々の工学との融合や、医療分野における医学、バイオ、情報などの他分野との融合プロジェクトは、目に付きやすい事例だろう。新しい科学技術や産業におけるイノベーション、複雑な医学、社会科学、さらに地球環境問題などは、異分野間の融合を行わないと達成されないということが強く意識されはじめている。文部科学省における21世紀 COE プログラム(研究拠点形成等補助金事業)においても、異分野間融合プロジェクトが積極的に採用され、NEDO技術開発機構においても、平成18年度から産業技術研究助成事業革新的異分野融合枠が創設されている。

 もともと、工学、技術分野、製品開発において異分野間の融合は、規模の違いはあれ、常に行われてきたことではある。企業の製品開発においては、技術者が問題解決のための解決策を企業の内外、国内外に求めるのは当然である。また、技術面だけでなく、製品のデザイン、使いやすさ、使用の安全性、信頼性などに、製品技術である理工学と、文化、美意識、心理、行動など、いわゆる人文社会学との連携が個別的ではあるが行われてきている。しかし、異分野融合は、実は必ずしも簡単なことではない。

 私の現在の研究課題の一つである“シリコンフォトニクス”を例にあげると、これは、既存のLSIのチップの中に光集積回路を融合させようというものである。他分野から見ると、電子と光とは非常に近い分野であるように思われるかも知れないが、実際に、両者を融合するには非常に大きな障壁がある。電子素子であるLSIの技術については、中枢部分のトランジスタ回路から周辺材料、システムまで成熟した技術が確立されている。そこに光回路をあらたに取り入れるということは、回路構成、用いる材料、回路のロジック、周辺材料、製造装置まで置き換えるということになる。生産性、コスト、信頼性などの問題も検討しなくてはならない。“シリコンフォトニクス”の研究者は、光回路の特徴、優位性を強調するが、LSI技術者が未知の技術を熟成したLSI技術に取り入れることに抵抗感を抱くのは自然である。

 しかし、LSIが行き詰りつつあることは明白で、光回路がLSIの中に取り込まれるのは必須であろう。“シリコンフォトニクス”は、電子回路と光回路との融合といった両技術の共鳴の意味とともに、これまでのLSI技術を否定する破壊の意味をも持つといえる。異分野融合という言葉は、ともすれば既存の異分野の平和的、共鳴的融合と理解されがちであるが、新しい科学技術の真の創生、イノベーションへの発展のためには、既存の学問、科学技術を否定する破壊的融合も併せて必要であることを強く感じている。

 また、異分野融合は、個々の研究者、企業規模レベルでの個別的な融合から自然発生的に生じる融合もあるが、現在、国の主導で進められている異分野融合は、エネルギーや環境問題のように複雑、大規模で、かつ異分野の融合が必要である問題設定型融合、および、ナノテクノロジーのように異分野で個別に利用されている基本技術を相互に連携、融合して科学技術の創生や産業におけるイノベーションを期待する技術主体型融合である。

 こうした国家規模の大規模な融合は、個人のレベルで行うのは無理で、強いリーダのもと、組織的に行うことが必要である。だが、日本では、異分野の連携や融合を行うリーダが十分に育っていない。かつまた、融合の手法が確立されていないために、アメリカなどに比べると異分野融合が必ずしもうまく進んでいないと考えられている。既存の縦型科学技術に対して、これらを横断的に連携させることを可能とする場の提供や、横断化の手法に関する新しい科学技術の創造、さらには、横断的、俯瞰的な視点を備えて、異分野融合を進めることのできる横断的人材の育成が必要である。しかし、一旦、横断化の手法、横断的人材といったように話が一般化されると、急に、異分野融合の意味合いや具体的手法に関して議論百出し、分からなくなってくる場合が多い。先ずは、具体的な課題に対して、個別に異分野融合の方法論を考えていくのが分かりやすく、そこで明らかになった問題点を考慮しながら、人材の育成、連携の場を提供できる環境、横断化のシステムづくりに反映させていくことが異分野融合への近道ではないかと思われる。横幹連合が、こうした連携の場を提供できる環境づくりに寄与することを期待している。

 繰り返すが、異分野融合は必ずしも既存の分野の共鳴的融合だけでなく、既存の学問、科学技術を否定する破壊的融合も併せて必要で、破壊的融合が、しばしば、革新的科学技術の創生、イノベーションへと通じることを科学技術の歴史が語っている。

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