バックナンバーは
こちら



















【協力】
西垣一朗様(日立製作所)
横幹連合 広報・出版委員会
    *  *  *
■横幹連合
 ニュースレター編集室■
武田博直室長(セガ、日本バーチャルリアリティ学会)
高橋正人委員(情報通信研究機構、計測自動制御学会)
小山慎哉委員(函館工業高等専門学校、日本バーチャルリアリティ学会)
鈴木一史委員(放送大学、日本感性工学会)
河村 隆委員(信州大学、日本ロボット学会)
■ウェブ頁レイアウト■
諏訪博彦委員(電気通信大学、日本社会情報学会)

横幹連合ニュースレター

<<目次>> No.024 Jan 2011

巻頭メッセージ

活動紹介

参加学会の横顔

 
「モノつくり、コトつくり、          
         そしてヒトつくり」
 
*
 
横幹連合理事
慶應義塾大学 教授
本多 敏
 
 第28回横幹技術フォーラム
 
【横幹連合に参加している
 学会をご紹介するコーナー】
 
日本応用数理学会

イベント紹介

ご意見はこちらへ

 
 
第29回横幹技術フォーラム これまでのイベント開催記録
ニュースレターへの
ご意見・ご感想を
お聞かせください。
*
 E-mail:
  

巻頭メッセージ

モノつくり、コトつくり、そしてヒトつくり

  本多 敏 横幹連合理事

  慶應義塾大学 教授

 皆さま、明けましておめでとうございます。

 2003年4月7日に設立総会が行われてから、横幹連合は数えで 9歳となった。設立時は、政策提言プログラム「横断型科学技術の役割とその推進」(2002年8月‐2003年12月)の報告書の作成を、その中核団体として担っていた時期にあたる。筆者は、プログラム推進委員会の要請を受けて、横断型科学技術の海外調査として、フィンランドを訪問する機会を得た(2003年3月31日‐ 4月4日)。ちなみに、このときの海外調査は、原辰次先生(USA調査)、出口光一郎先生(EU調査)と筆者とで担当した。ところで、当時のノートを見直してみると、調査報告書を完成して事務局に提出したのが、期せずして4月7 日のことである。
 フィンランドは、世界経済フォーラムの2003年3月レポートで、情報通信分野での国際競争力指標が第一位と評価されるとともに、教育についてもトップレベルの質を維持している国である。2009年度のOECDによる国際学習到達度調査PISAでも上位にあった。
 さて、このときの調査は、実働5日間で、12機関、計22名の関係者へのインタビューを行うという強行軍でもあったのだが、当時なりに実りある調査訪問であった。東京のフィンランド大使館に、3月20日に事前訪問して調査の趣旨説明を行ったところ、5日間の訪問プログラムは、大使館のアレンジによって、出発までの約 1週間のうちに確定できた。人のネットワークによる、「ITはスピードが命」(これは当時の、はやりことばだった)そのものを体感させてもらった。
 この調査結果で強く印象に残ったことは、キーパーソン同士は、分野が違っていても互いに知り合いで、風通し良く議論が行われ、研究者間の協働(collaboration)が常態となっていることである。国の規模が小さいことも、その理由なのかもしれない。フィンランドの人口は、当時520万人(注1)。しかし、毎年1200人以上が博士学位を取得している。

 このときの政策提言プログラムをはじめとして、筆者は、横幹連合の「人材育成、教育」に関連する分科会や調査研究会で、多く活動してきた。教育の専門家ではないのだが、計測自動制御学会の理事としてJABEE(日本技術者教育認定機構、注2) に係ってきたことなどから、仲間に加えていただいている。
 当時の「横幹型科学技術」の説明としては、「自然科学に基礎をもたない精密科学で、広義の技術の基礎領域」、「外延技術と内包技術」といった基本概念が固まった段階であって、たての応用工学とよこの純粋工学を表す「縦横図」と、transdisciplinary という言葉、そしてプラットフォームという概念だけを頼りに、海外では面談に当たっていた。それゆえに反省点もあって、「モノつくり」と「コトつくり」、「新しい知の創生」や「知を利用するための知」などのような最近の精緻な横幹型科学技術を語ることばを持っていれば、もっと突っ込んだ調査ができたはずだ、という思いや、なぜもっと教育システムについても調査をしなかったのか、という悔いも残っている。
 ところで、それは、日本のJABEEが手本とした米国の技術者教育認定機構ABET が、これまでの、何をどのように教えるかという input base であった認定審査基準を、どういう能力が身に付くかという outcomes baseに転換したEC2000新判定基準(注3)の施行後でもあった。ABETの会長がISOの会長と懇談した際に、ISO9000 シリーズの認証の話を聞き、PDCAにもとづいたoutcomes base (注4)に転換したのだそうである。
 ちなみに、私の認識では、それを契機に品質管理分野におけるPDCA という用語が日本の教育の世界に導入され、JABEEをはじめ、その後に義務化された大学の外部評価(大学評価・学位授与機構、大学基準協会)にも導入されている。

 さて、「横断型人材育成推進」調査研究会(佐野昭委員長)では、横断型・融合型人材を対象として、その持つべきコンピテンシー(高レベルの成果を生み出す行動や判断、注5)を以下の6項目として、企業インタビューなどを行うとともに、こうした人材の育成方法や現実のプログラムについて調査した。この調査結果については、 一昨年の会誌(「横幹型人材育成」特集号、Vol.3 No.1、2009)に、活動成果報告として掲載している。

 (A) 現象やモノと直接向き合い、本質を見極めるモデリング・解析能力
 (B) 専門性に捕らわれることなく、異分野の知識を積極的に統合化し問題解決を図れる能力
 (C) 将来の国際動向を見据えた目標や構想を設定し、総合的な視点から先見性のある意思決定ができる能力
 (D) 個別のプロジェクトから一般化・普遍化の方法論を探求する能力
 (E) 異分野の技術者と共同できる十分なコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力
 (F) リーダシップ、人脈ネットワーク、人材配置などのコーディネーション能力

 このうち、(A)(B)(E) は、(学士レベルの教育では) JABEE認定プログラムで、ある程度カバーできる項目だが、(C)(D)(F) のように、卒業生全員が達成するのは困難だと思われる項目もある。

 「横断型人材育成推進」調査研究会の調査の際には、「インタビュー先の企業に、横断型人材という表現では趣旨が伝わらない可能性がある」とする意見が委員から出され、「横断型・融合型人材」という表現も併用することとした。「個別の知は融合するような、やわなものではない」という木村会長の言葉もあるが、人材として見たときには、個人の中では複数のディシプリンがシームレスに融合しているはずであり、人材の形容詞としては適当であったと考えている。(バイリンガルの人の頭の中はわからないが、)我々が母語でない英語でコミュニケーションするときにスイッチを切り替えているのと同じようには、一つのディシプリンから別のディシプリンに切り替えているとも思えないからである。むしろ、そのような人材をどう育成し、その成果をどう評価するか、すなわち育成プロセスのPDCA(Plan-Do-Check-Act) をどう構築し機能させるかが課題なのであろう。
 フィンランドでの調査や政策提言プログラム、その後のプロジェクトでの多くのインタビューにおいても、横断・融合をするためには、まず先に、一つのディシプリンをしっかり身に着けることが重要である、との意見が大半であった。そこで、本調査研究会の報告書の中では、人材育成プログラムにおける Plan と do についての先進的な教育プログラムを報告するとともに、いくつかの提言を行った。
 そして、佐野委員長から引き継いだ現在の調査研究会では、Check と Act を中心課題に据えて、引き続き活動を進めようとしている。
 ところで、昨年末に発表された国際学習到達度調査PISA2009 の結果では、日本の成績が全体に向上し、特に「読解力」の回復が顕著であることが報じられた。この読解力は、 横断型人材の持つべきコンピテンシーと共通している(注6)ことから、横幹連合にとっても明るい話題の一つとなった。
 新年を迎えて、関係しておられる方々からの「横断型人材育成推進」調査研究会への提案や、その活動への積極的な協力を、大いに期待している所以(ゆえん)でもある。

 【参考】会誌「横幹」第3巻第1号(2009年4月号) ミニ特集「横幹型人材育成」
  http://www.trafst.jp/journal/index.html
  http://www.fujipress.jp/TRAFST/TRFST00030001.html pp. 3-51 (無料ユーザ登録で、閲覧可)
 同会誌のpp. 27-35に、本多敏、古田一雄、飯島淳一、長田洋、佐野昭「大学・大学院における横断型人材育成の現状と課題」が掲載されている。全文のPDFファイルが、閲覧可。

(注1) フィンランドは、日本全土より少し小さい面積で、福岡県民(約510万人)より少し多い人口の国家。(注釈の文責は、編集室。以下同じ。)
(注2) JABEE (日本技術者教育認定機構 Japan Accreditation Board for Engineering Education)は、高等教育機関(大学、高等専門学校など)で行われている技術者教育プログラムの審査、認定を行うNGO。1999年11月に設立された。理工農系の技術分野を代表する多数の専門学協会、日本技術士会、企業などの団体を会員として運営され、それらの技術者を中心とする分野別審査委員会によって、認定、審査が実施されている。高等教育の改善を推進するとともに、教育プログラムの国際的な通用性を担保することが意図されている。
(注3) ABET (Accreditation Board for Engineering and Technology)の、EC2000 (Engineering Criteria 2000)新判定基準」:教育プログラム認定において、ある教育プログラムが認定に値するかどうかの審査を、その教育プログラムの修了者が実際に修得した知識や能力に基づいて行うこと。教育プログラムの評価においては、そのカリキュラム(科目や時間配分)や講師の資格などの「受講者のインプット」が長く判断基準とされてきていたが、評価を、その修了生の実力によって計る「アウトカムズ」評価に転換することが、米国の技術者教育認定機構ABETの2000年の判定基準から採用され始めた。この新しい判定基準EC2000は、2001年9月から、米国における大学すべての工学教育プログラムの判定基準とされて、諸外国の教育システムにも影響を与えている。
(注4) 「PDCAにもとづいたoutcomes base」:品質管理の「PDCA サイクル」、すなわち、Plan-Do-Check-Act (計画 - 実施 - 検証 - 改善)のサイクルに倣って、業務を継続的に改善する手法。最近は、リスク管理や経営・労務管理、教育システムの改善などにも、幅広く活用されている。事前の計画を、ではなく、その成果(outcome)を検証の対象とする。
(注5) 「コンピテンシー」:高いレベルの業務成果を生み出す人材に特徴的な、行動や判断の特性。Competency。
(注6) 国際学習到達度調査PISAで評価する読解力とは、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、(効果的に)社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」のことで、横断型・融合型人材の持つべきコンピテンシーと共通している。コトつくりや知の統合のための15歳における基礎力と考えることができるとともに、昨年末のPISA2009 では、この「読解力」が、PISA2000 (第一回)の順位にまで回復していると報じられた。

(注釈の文責は、編集室)   

このページのトップへ