横幹連合ニュースレター
No.008, Dec. 2006

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
「学問の体系化と展開」
横幹連合 理事
安岡善文

■活動紹介■
【参加レポート】
●第1回横幹連合総合シンポジウム
●知の統合ワークショップ
●共生コミュニケーション支援調査研究会シンポジウム

■参加学会の横顔■
●社会・経済システム学会
●日本オペレーションズ・
リサーチ学会

■イベント紹介■
●「イノベーションにかかわる
知の融合調査」アンケート
●第14回横幹技術フォーラム
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.008 Decsember 2006

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、社会・経済システム学会日本オペレーションズ・リサーチ学会をご紹介します。
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社会・経済システム学会

ホームページ:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jasess/

 会長  津田 直則

 (桃山学院大学 教授)

 【企業・非営利組織・地域社会を横断する非営利価値】

 近年、社会的・経済的事象に関する研究領域にも、システム研究・システム思考の展開は多様に行われ、その発展に見るべきものがあります。この動向は、それぞれに異なった源流や経路の中から生まれていますが、単に一時の風潮や安易な流行ではなく、科学と思想の歴史的発展に根ざした一つの大きな流れをしめしているようです。
 社会的・経済的事象のシステム研究においては、社会科学のみならず、自然科学、人文科学など多くの分野からの学際的研究を必要としますが、その中で、この領域そのものの独自のシステム特性を理論的・実証的に明らかにして行く努力が求められています。さらに、その学問的構築の成果によって、現代社会の多くの政策的課題の解決をはかることが必要です。
 このような研究の相互交流と発展に多くの分野の方々が協力して取り組んでおられるのが、社会・経済システム学会です。
 この学会について、会長の津田直則先生(桃山学院大学)に、お話を伺いました。
 
Q 約4分の3の大会が関西で行われるなど、一見、関西が主要な研究活動地域であるようにも見受けられるのですが。
津田会長 社会・経済システム学会は、関西の研究者を中心として1982年に設立されました。たしかに当初は大会も関西だけでの開催でしたが、最近は関東の研究者も多く、関東での全国大会も増えています。社会科学系と理工系双方の研究が発表されますので、特にサイバネティクスやエージェントベース・モデルなど工学系の研究者も増加する段階に至ったことなどから、学会の活動は自然に全国的なものになってきました。
 社会・経済システムを中心に扱うユニークな学会であることから、メインの所属学会を別に持っている研究者が、社会・経済システムの視点からの発表をここで行うことも多いのです。関西だからということではなくて、さまざまな分野の研究者が社会・経済システムについて研究し交流しあう点が、この学会の特色と言えるでしょう。
 
Q これまでの大会のテーマが、「社会システムの公共性」「社会・経済システムの、リスクと安全」「幸福・不幸と社会システム」と具体的で、また横幹連合的なテーマを先取りしてこられたようにも感じられます。このようなテーマの取り上げ方に、何か学会の特色がございましたら、ぜひお聞かせ下さい。
津田会長 社会・経済システム学会のテーマの一つには、現在の多くの矛盾や問題を抱えている「社会・経済システム」をいかに造りかえるか、という視点があります。つまり、未来のシステムを創造することも学会の大きなテーマなのです。理工系の研究者も増えつつあり、ここに横幹連合との接点が広がっているように思います。現代のような歴史的な転換期には、社会科学系と理工系の研究者が共同して未来のシステムを研究することが必要で、そうしたトータルなシステム研究をめざしているのが本学会の特徴です。大会のテーマは、そうした広い視点から、大会実行委員会や機関誌の編集委員会などで議論して決められています。
 
Q 学際的な研究ならではのご苦心、ご提言などがあれば、是非お聞かせ下さい。
津田会長 現代は、社会・経済システムが主に「政府」セクターと「市場」セクターに2分割され構成されていますが、地域社会では「非営利組織」を中心とした非営利の活動がサードセクターとして新たに拡大しており、このセクターをシステム論の立場から体系的に研究する必要が出てきました。他方、市場セクターである営利企業にも非営利領域である CRS (企業の社会的責任) への取り組みが広がっています。非営利とは何かという問題にさえ、根本的な議論の必要があるでしょう。
 こうした分野に挑戦する研究者も出てきていますが、フロンティアの研究領域であり体系的な研究はこれからだと言えます。横幹連合の他学会からも、この研究分野への参加者が現れることを期待しております。例えば、非営利活動の「評価基準」の策定といった事柄にも、統計などの理工学的な手法が求められているのですから。

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日本オペレーションズ・リサーチ学会

ホームページ:http://www.orsj.or.jp/

 会長  青木 利晴

 ((株)NTTデータ 相談役)

 【最適化の時代」の旗手を目指して】

 新しいことを始めるとき、また実行していることを改善しようとするときに、いろいろな案を検討されると思います。でも、すべての案を並べることはむつかしいですし、実行してみなくては評価や結果の予測が立たない場合も多いでしょう。オペレーションズ・リサーチ(OR)は、人間社会のこうした多くの問題を、科学的に解決するための実学、「問題解決学」です。しかも、問題の分野を選ばないという横糸的な性格を持っています。
 日本オペレーションズ・リサーチ学会(会員数約2,500名)は、1957年に設立されて以来、具体的な「分析や意思決定」へのORの活用を図り、それゆえにOR学会の会員は、経済学、経営学、理学、工学、農学、医学、芸術など、あらゆる分野から構成されています。そして、過去にたくさんの問題を解決してきた歴史を、その財産として持っています。
 「シミュレーション」というORが意識的に取り上げた方法論のひとつは、日常使われる日本語になりました。このようにOR学会では「地に足が着いた」状態で、ORの研究者、ORに関心を持つ実務家たちが日々新しい課題を掘り出し、豊かな社会を築くためにそれを解決する方法を研究発表し、また、海外とも積極的な交流をしております。
 この学会について、会長の青木利晴先生(NTTデータ)にお話を伺いました。
 
Q 最近、木村英紀副会長のご講演中に、戦時中のORなど「第3の科学革命」についてのお話がよく登場し、ORという「横糸的」な問題解決学への注目が高まっています。ところで、60年代頃の「新しい工学」ORは、当時をご存知の青木先生にとって、どのような魅力に溢れていたのでしょう。
青木会長 それは、非常に魅力的でした。私が大学院生の頃、指導教官が国鉄の新幹線に係わっておられたことから、当時の電子計算機で開業直前の新幹線のダイヤの評価をするなど、システム工学や最適化やシミュレーションといった当時最先端のORの技法に、若さゆえにのめりこみました。学会誌には海外の最先端の研究も紹介されており、その到着を心待ちにしていました。産業界からの期待も大きく、当時の会長には土光敏夫氏や小林宏治氏など、そうそうたる人物がおられます。
 ところが、例えば電子情報通信学会であれば「エレクトロニクス産業」という産業界との強いつながりがありますが、これがOR学会には存在せず、そのことが不利な面があります。ただ横糸的に等距離で広い分野の問題を扱うことができ、現在は本当にさまざまな分野で、多くの会員が熱心に研究を進めています。
 
Q 扱う分野は広いと思いますが、会員の皆さんの研究のトレンドなどは、ございませんか。傾向の違いや特色は、日本と海外や地方間ではいかがでしょう。
青木会長 最近は金融工学の分野などは、論文数も多いと思います。しかし、学会のトレンドがどう、という事ではなく、ORは社会・産業界からのニーズに応える形で問題の解決が要請されますから、会員個人がどんな領域に関心を持つかですね。そうした意味からは、近年は欧米のみならずアジアの研究者との交流も多くなりました。OR学会は IFORS (国際OR学会連合会)の一員で、世界全体には25,000人ほどの研究者がいるのですが、日本OR学会の会員数2,500人は米国に次いで第二位です。会員の関心に添ったさまざまな交流が、海外とも盛んに行われています。
 それから、これは学会の運営上の特色ですが、年に2回の大会があるので、1回を東京で、もう1回を必ず地方支部で行っています。すると、支部のときはその支部の学生会員の登壇がとても多くなり、とても楽しみです。一割強しかいないはずの学生会員が発表の過半を占めるという場合もあって、これはもちろん正会員の裾野を広げることにもつながっています。
 
Q 「横幹連合」は、これまでの縦割りの学会に横串(横糸)を見つけてゆこうとする試みですが、従来から問題に対するアプローチが横糸的であるOR学会として、他学会の参考になるお話がございましたら、お聞かせ下さい。
青木会長 現在のようにITやネットワークが一般企業に普及したことで、例えば経営についてのデータはどこの会社にも溢れるように存在しています。これを、使われていないデータを含めてORの技法で解析すれば、もしかすると新しい領域を発見し、開拓することができるかも知れない。つまり、既存の領域の問題を解決することだけではなく、ORで新しい価値を「創造」できるのではないかと考えています。
 横糸的に等距離で広い分野の問題を共通した技法で扱えるOR学会のこうしたあり方は、横幹連合の目指すアプローチに近いように思います。そうした意味からも、木村英紀副会長にORを取り上げてご解説頂いたのは、うれしいですね。

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