横幹連合ニュースレター
No.009, Apr. 2007

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
「会誌横幹の刊行」
横幹連合 理事
廣田 薫

■活動紹介■
【参加レポート】
●2007年度総会
●第14回横幹技術フォーラム

■参加学会の横顔■
●日本知能情報ファジィ学会
●日本人間工学会

■イベント紹介■
●第15回横幹技術フォーラム
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.009 April 2007

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、日本知能情報ファジィ学会日本人間工学会をご紹介します。
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日本知能情報ファジィ学会

ホームページ:http://www.j-soft.org/

 会長  鬼沢武久

 (筑波大学 教授)

 【形とあいまいさに学ぶしなやかなシステム】

 日本知能情報ファジィ学会は、実社会や人間の諸活動に存在するあいまいさを数量的に処理しようとする「ファジィ理論」を基礎として、1989 年に「日本ファジィ学会」として発足しました。その後、「ファジィ」の基本理念のもと知能情報分野への発展的な展開を目指して、2003 年1月より現在の名称「日本知能情報ファジィ学会」に改称されました。
 今までの技術では困難を伴う複雑なシステム、人間の知識や経験などのコンピュータによる表現や実現に、「ファジィ」の理念が威力を発揮することを示して、工学のみならず、経営学、経済学、医学、人文科学、社会学、心理学、数学、建築、教育、芸術などの分野への応用に多大な貢献を行ってきました。
 最近では、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム(GA)、カオス、人工生命などとの融合を通じて、柔らかな情報処理手法と目されている「ソフトコンピューティング」の確立とその応用に力を注いでいます。この学会について、会長の鬼沢武久先生にお話を伺いました。
 
Q ファジィ理論は、カリフォルニア大学のZadeh(ザデー)先生が1965年にファジィ集合論を提案されて以来、とても幅広い分野の研究に応用されてきました。そこで例えば、これから研究を始める学生が、自分の学びたい分野でどのような先行研究があるかを知りたい場合には、どのような調べ方があるのでしょう。
鬼沢会長 学会ホームページの「学会誌・図書」や「データベース」から、ファジィに関する図書、学会誌やシンポジウムの論文の Abstract などを簡単に検索できますし、ファジィ理論を応用する、200以上の製品を紹介した新聞記事を読むことができます。このデータベースからの検索は会員以外の方も利用できますので、ここから興味を引く研究を探してみてはいかがでしょうか。
 また、2006年以降の学会誌に掲載された論文については、今年の5月あるいは6月からダウンロード可能とする予定です。数多くの学協会の論文を公開しているJ-STAGEサイトでの公開ですが、学会ホームページからも辿れるようにしますので、ぜひ利用してもらえればと思います。
 さらに国際的には、IEEEにファジィ専門の論文誌があるほか、ヨーロッパのエルゼビア社のFuzzy Sets and Systems をはじめ、ファジィを扱う論文誌も多く刊行されています。調べてみる価値は十分にあると思います。
 ところで私は、学生たちには「ファジィ理論を用いない従来の工学的アプローチを、先にきちんと学びなさい」と言っています。解決すべき問題が従来の工学的アプローチで解ければ、それでいいからです。しかし必要な情報があいまいな場合には、従来の工学的な解法には限界があることを知り、ファジィの考え方の必要性を感じてほしいと思っています。「あいまいさを排除するのが自然科学の役目である」という考えのもと、ファジィが批判された時期もありましたが、非常に幅広い分野にファジィ理論が応用されてきたことで、現在では役に立つ解法の一つとして理解されているように思います。
 
Q 鬼沢先生は知的インターフェースや感性情報処理などを中心に研究を進めておられますが、ファジィ理論のおもしろさをどんなところに感じておられますか。
鬼沢会長 ファジィ研究をするようになったきっかけは、東京工業大学の寺野・菅野研究室に助手として入ったことでした。当時私は、ファジィ理論の信頼性工学への応用を手がけていました。この分野には既に確率論を用いた手法が確立されていたにもかかわらず、まだ若かった私は、ファジィ理論を引っさげて信頼性工学の分野に乗り込んでいき、見事に討ち死にしました。しかし当時、小規模ではありましたが研究仲間もできましたし、いまだにファジィ理論の信頼性分野への応用に関する論文の査読が回ってきますので、この分野へのファジィ応用に関する研究の足跡を残すことができたと思っています。それとこれが一番大きかったことですが、信頼性解析の要因の一つとしてヒューマンファクターがあること、人間の多様性ゆえに研究の難しさがあることを知り、ファジィ理論の応用研究はこのような人間を対象にした分野へ進むべきであるという思いに至りました。
  最近はコンピュータによる大容量データの解析が可能ですから、「言語」や「感性」の分野に目を向ければ、数理的、工学的に処理できるファジィ理論の豊かな可能性は広がると考えています。そして現在は、言葉、人間が絡んだ不確定情報ゲーム、顔表情、音楽、デザインなどへのファジィ理論、というよりソフトコンピューティングの幅広い応用を、研究テーマとしています。
 従来からのファジィ応用分野としては、ファジィ制御が広く知られており、多くの応用事例があります。例えば、仙台市の地下鉄にファジィ自動運転が導入され、運転がスムーズに行え、乗り心地も満足できるものとなっています。このようにファジィ理論は、活用しようとする人にとっては使いやすい手法の一つになっていますが、個人的には、人間を研究対象にした、例えば感性の分野などに、今後ファジィ研究の中心の一つが移っていくことを期待しているところです。
 
Q 学会は当初から、文理の領域横断を目指しておられたとのことですが、他学会の参考になるような点をご教示いただけますか。
鬼沢会長 日本でのファジィ研究の歴史を見ると、寺野寿郎先生がファジィの本質は「非工学、ノンエンジニアリング」にあることを見抜かれて、25年くらい前にノンエンジニアリング研究部会を立ち上げられました。それが今日のソフトサイエンス研究会(学会の研究部会)の活発な活動にもつながっています。またその流れは、例えば学会誌編集委員会メンバーを工学以外の方にもお願いして、おもしろい特集を組むことなどで、研究や関心の幅を広げていくことに反映されており、お陰で自然に文理の融合が図られているように思います。
 異なった領域の方が集まるときには、例えば使っている用語や文化が違うため、お互いを認め合うことが大事です。ソフトコンピューティングの重要性は広く認められてきましたが、ファジィ学会のそうした考えも他の学会の参考になるのではないかと思っています。
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日本人間工学会

ホームページ:http://www.orsj.or.jp/

 会長  大久保 堯夫

 (日本大学 教授)

 【ヒトとモノ・環境との調和 − 人間工学】

 人にやさしい技術、使いやすい機器、生活しやすい環境をつくるために生まれた人間工学は、いろいろな分野で広く応用されています。安全な製品や用具、快適な作業環境や住まい、高齢者にやさしい環境、使いやすい情報機器、ストレス防止対策などは、いずれも人間の特性と効率のよいマッチングをねらう人間工学が大いに役立つ分野です。このように人間工学は、私たちの生活に定着してきているのです。
 日本人間工学会は、人間工学に関する諸研究およびそれに関連する事業を促進することを目的として、1964年に創立されました。現在の会員数は、2,000名を超えています。本学会には、さまざまな分野の研究者や、実社会で人間工学を実践している会員が参加しており、学際的な幅広い活動を行っています。
 この学会について、会長の大久保堯夫(たかお)先生に、お話を伺いました。
 
Q 私が蔵書しています「現代人間工学概論」(浅居編著、オーム社、1980年)は、私の専門であるバーチャルリアリティ分野にも、大変参考になっています。ところで、以前は労働環境や機器の使いやすさの改善などを研究対象としていた人間工学は、最近、扱う範囲が非常に広がっているようなのですが。
大久保会長 たしかに初期の人間工学では、人間の特性に即した労働環境の安全性、信頼性の向上、最適化、快適性、そして、工業製品の使いやすさなどが主に研究されていました。しかし、人間と社会の様々な変化に即して、取り組むべき専門科目も増え、層も厚くなってきたのです。顕著な変化としては、身長などの身体特性や個人の価値観が変化しています。それに並行して、臨床医療、福祉分野からの要請や環境問題、そして少子化、高齢化による社会のニーズの変化も認められます。更に、工場のロボット化に伴って、倫理面の問題も生じました。コンピュータの性能が進化したことで、「感覚」や「知覚」をベースにした製品評価も工学の範疇に入りました。
 国際ヒューマン・コンピュータ・インタラクション会議(HCI:人間工学と情報技術に関する著名な国際会議)などでは日本からの発表も多く、日本の研究水準も高いのですが、人間工学の扱う研究対象について、範囲が非常に広がっていることが分かります。しかし、人間の動作域を尺度とする無理のない「姿勢」とか、(腰痛などの)運動神経系の負担の軽減といった古くて新しい、生活、産業上の課題も、もちろん扱っています。
 
Q 大久保先生が人間工学に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?
大久保会長 紡績工場の科学的改善などに取り組まれ、「労働科学研究所」の初代所長をされた暉峻義等(てるおかぎとう)先生と二代目所長をされた本林富七郎先生、当時主任研究員であり後に東京大学医学部教授、現人間工学名誉会長の大島正光先生に知己を得ました。1966年に、日本大学に労働科学の講座が日本で最初に開かれました。ここで、鉄道・航空・建築などの産業安全の基礎作りが始まったのですが、私はその講座に助手として入りました。父親が医師で暉峻先生と同窓であり、又当時医学部の学生だったことも手伝い、労働科学には必然に興味が湧いたのです。それがちょうど人間工学会設立の当初で、設立メンバーの方々全員との知遇を得ました。日大の講座に大学院を作ろうという動きも出たことから、間もなく研究と調査のため英国ラフバラー大学大学院に長期留学し、英国流の体系的な人間工学の講義及び実習他を学びました。これが私の専門である生体機能の計測評価による作業改善のみならず、日大の講座の開設に当たっても参考になる、非常に貴重な体験となりました。
 また幸運だったことには、この大学はスポーツ医学の総本山にあたり、現在の欧州のヒューマンインタフェース関連学会の各種委員長に、この大学院の出身者がかなりいます。国際的な人脈をつくるという意味からも、このときの留学は大変役に立ちました。
 
Q 文理融合という横幹的な研究の進め方に関して、人間工学会の立場から、何か参考になることがありましたらお聞かせください。
大久保会長 人間工学の場合には、生体としての特性を持っている「人間」を中心に据えて、解決方法を考えています。そうしたことから、既存の学問領域を越えた研究が進めやすいのではないかと思います。それに併せて、異なった領域の方とも共通の会話ができるように、スケールのISO標準化などにも積極的に取り組んでいます。最初のご質問でもお答えしました通り、人間の特性や環境の変化による新しい課題が多く出てきていますので、横幹連合の各学会とはコラボレーションを積極的に進めていければ、と考えています。
 ところで、人間工学の知識を持った専門家を認定して活躍を支援するために、人間工学専門資格認定試験を2004年から開始し、すでに国際的に通用する約160人の人間工学専門資格者が誕生しました。例えば、PL(製造物責任)法では、日本では弁護士などが活躍していますが、欧州では人間工学の知見を持った専門の技術士が主に担当しているようです。日本の認定試験は始まったばかりですが、将来は、例えばIEA(国際人間工学会)などとの資格認証(Endorsement)を取り、国際的に活躍できる人間工学の専門家作りを積極的に推進して行かなければと考えています。こうしたことも、研究者の支援につながると思います。関係各学術団体のご協力とご支援を、心よりお願い申し上げます。
 

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