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横幹連合ニュースレター

<<目次>> No.021, Apr 2010

巻頭メッセージ

活動紹介

参加学会の横顔

 
課題解決の舞台に立つ横幹連合
 
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横幹連合理事
舩橋誠壽
 
 第24回横幹技術フォーラム
 
【横幹連合に参加している
 学会をご紹介するコーナー】
 
行動経済学会

イベント紹介

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第26回横幹技術フォーラム これまでのイベント開催記録
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巻頭メッセージ

課題解決の舞台に立つ横幹連合

  舩橋誠壽 横幹連合理事

  横幹連合/(株)日立製作所

  事務局長を2009年11月から仰せつかっております、総務理事の舩橋です。どうぞよろしく、お願い申し上げます。私と横幹連合との出会いは、日本ファジィ学会の副会長を務めていた2001年の学会連携の初会合のときです。いわば創業時代からの知り合いですが、実際の運営に携わったことは、これまでありませんでした。やはり、まったくの新人といえます。

 会社では、「5~10年先の姿を想い描いて、日々の研究開発に取り組みなさい」と、毎年4月に入ってくる新人の企業研究者の卵たちに向かって、話してきました。同じことを、自分にも当てはめて、自分に尋ねるつもりで、横幹連合の将来の姿をイメージしてみたいと思います。

1.会員学会の期待:一つの学会では成し得ない、社会的課題への取組み

 横幹連合の将来の姿を描くために、まず、会員学会がどんな期待をもって横幹連合に参画されているかを見てみましょう。この材料として、2008年に行われた、会員学会の会長と横幹連合会長・副会長との個別懇談の記録を発見しました。会員学会の代表者がどのようなことを述べられているかを書き抜いて、全体を眺めてみました。これはまったくの個人的な分析ですが、発言を特徴づける軸として、外部志向(そと)と内部志向(うち)、形式志向(かたち)と文脈志向(なかみ)を想定し、すべての発言をプロットしてみました。この結果を図1に示します。

 
図1 会員学会の横幹連合への期待

 そとに向かっては、一つの学会では成し得ない社会的な課題への取り組み、また、政府・企業への提言や事業の受託が望まれています。図中で背景色をつけた箇所は、この指摘が多かったことを示します。うちに向かっては、会員学会相互の資源の活用と、単一の専門性を超える課題に取り組む要の事例の開発が期待されていると捉えました。多様な分野をカバーする学会連合だからこそ生まれる、重要かつ大きな期待があることが認識できます。

2.科学技術政策の動向:基礎体力強化と課題解決型イノベーション

 日本の科学技術政策の基本的な枠組みを与える科学技術基本法が、1995年に施行されました。この法律では、「科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的に推進することにより、我が国における科学技術の水準の向上を図る」ために「国は、科学技術の振興に関する総合的な施策を策定し、及びこれを実施する」としています。現在、2011年度からスタートする第4期科学技術基本計画の立案が進行中で、木村会長のリーダシップの下に、横幹連合もこれに対して提言してきていることは、皆さまご存知の通りです。

 最近、総合科学技術会議での検討状況が公表されるようになりました。作業途中の資料では、ここ10年間で日本人8人がノーベル賞を受賞し、また、太陽電池、燃料電池、リチウム電池、青色レーザーなどに基礎科学からの結実があったとはいえ、基礎的な科学・技術力をイノベーションの展開までにつなげられておらず、日本が強みをもっていた領域での競争力も相対的に低下し、経済・社会的な課題解決に結びついていないことなどが反省されています。そして、この反省を踏まえて、第4期計画では、次のようなことが構想されています。

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〔目指す国・社会のすがたへの視点〕

○人類共通の科学的価値を創出する力のある国
 知的・文化的価値を尊重する日本の歴史や伝統に根ざし、経済成長に主眼を置く新興国に先んじて、人類共通の科学的価値を創出し、「ソフトパワー」を強めていく。

○イノベーションにより豊かさを実現する力のある国
 環境や資源、少子化等の制約については、従来と異なる新たな需要を生み出す「100年に一度のチャンス」ととらえ、イノベーションにより乗り越えていく。これにより、新たな産業・雇用の創出と国民の「幸福度」の向上を図るとともに、「課題解決型の処方箋」として国際展開することで、国内外の豊かさを実現していく。

総合科学技術会議基本政策専門調査会(第5回、2010年2月23日開催)資料から
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 すなわち、基礎体力の強化と成長を牽引する課題解決型イノベーションの二つに注力する方向に施策の立案が進んでいるようです。

3.横幹連合の明日の姿:課題解決を先導する

 さらに、第4期計画の構想ではその基本計画として、世界では、地球環境問題や、水・食料・資源・エネルギーの枯渇などの課題が顕在化し、これらの解決が急務であることから、日本の将来像を見据えた上で、解決すべき「大きな課題」を設定し、実効性のある研究開発課題を設定していくことが必要である、としています。一つの学会では成し得ないような社会的な課題に取り組み、社会に貢献してゆこうという姿勢は、まさに、会員学会の多くが期待するところです。科学技術の施策も、その方向に向かっていると解釈できます。

 こうした前提を元に、今後、私たちの横幹連合が目指すべきかたちを図2に描いて見ました。いくつかの学会が協力して、一つの学会では成し得ない課題解決に取り組んでいる姿です。後で述べるように、横幹連合の強みは、その要である「知の統合力」にあると思っていますが、課題解決を繰返すことで、知の統合力は一層の磨きがかけられると期待されます。

 
図2 横幹連合のかたち

 また、図2では、産業界との結びつきの重要さも指摘しています。課題の解決に取り組むためには、課題そのものを、まずはっきりさせる必要があります。このために不可欠なのは、課題が生じている現場を知ることです。横幹連合と産業界を連携する組織として、横幹技術協議会がありますので、こちらとうまく協調することによって、産業社会面での課題抽出や先行的な解決を手懸けることが可能です。(まだ実現できていませんが)市民団体との連携をもつことも、生活現場の理解という観点で大切かも知れません。

 図2では、今後具体化すべきこととして、国際連携も掲げました。従来の科学技術の枠組みを広げることによる課題解決への取組みは、海外でも、21世紀に入って議論され始めています。図には、その代表例として、スイス人文・自然科学アカデミーのNetwork for transdisciplinary research (td-net)とマサチューセッツ工科大学のEngineering Systems Division (ESD)を掲げました。横幹連合がこうした機関と連携して、お互いの活動を学び合うことは大変に重要であると思っています。

4.実現の裏付け:「知の統合」

 横幹連合の会員学会の期待と今後の国の科学技術政策の動向が一致することは、大変に好ましいことですが、私たちの社会貢献には、私たちが自身のスペシャリティーを認識し、これを高めるための不断の努力が必要です。

 第4期計画の骨子案では、主要な社会的課題ごとに、学界、民間と政策当事者が、現状認識やビジョンの共有を図り、研究開発の将来展望を検討する「場」の設置が構想されました。その場の先行例として、「欧州テクノロジー・プラットフォーム」(ETPs)が挙げられています。「欧州テクノロジー・プラットフォーム」は、戦略的な技術分野(先端工業材料、組込みコンピューティングなどの36分野)に関する共通のビジョンの策定や、ロードマップの提示、政策の提言を行う(民間主導の)産官学連携システムです。日本では経済産業省で進められている技術戦略分野が、(官主導ですが)これに近いのかもしれません。

 最近、欧州では、直面している課題に対して、プラットフォームが複数個連携して適切な集合体を形成してゆくことが必要である、という提言が起こっており、多分野が協力して取り組むことの重要性が認識されつつあります。しかし、ここで気をつけなければいけないことは、いろいろなプラットフォームが集まれば、それだけで課題が見つかり、また、解決策が見つかるものではないということです。

 横幹連合は2007年度と2008年度に、経済産業省からの委託を受けて、横断型アカデミックロードマップを策定しました。ここでは、様々な分野で、どのような知の統合が行われてゆくかを予測し、さらには、これを汎化する試みがなされました。私見で、こうした活動を図式化してみたのが図3です。この図では、横幹連合のスペシャリティーは、社会の構成者である市民や企業と対話をし、さらに、いくつかのテクノロジー・プラットフォームとの知識交換を通じて知を創発し、形而上学的なモデルの導出と演繹を行うことを通じて社会的課題の明確化と解決策を生み出すことを、想定しています。

 このように、対話論、知識創発論、モデル論を武器として、横幹連合は、私たち自身のスペシャリティーを認識することによって、課題解決時代のリーダシップをとってゆくことができると、私は信じています。

 
図3 課題解決時代における横幹連合スペシャリティー

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