横幹連合ニュースレター
No.028 Feb 2012

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
「Giorgio Quazza
メダル受賞の報告」
*
横幹連合監事
(独) 理化学研究所 BSI-
トヨタ連携センター センター長
木村 英紀

■活動紹介■
●第32回横幹技術フォーラム

■参加学会の横顔■
◆国際数理科学協会

■イベント紹介■
◆「横幹連合定時総会」
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.028 Feb 2012

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、国際数理科学協会をご紹介します。
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国際数理科学協会

ホームページ: http://www.jams.or.jp/

会長 長尾 壽夫 氏

(大阪府立大学名誉教授)

 
【For the welfare of the Humankind Promoting Mathematical Sciences】

 社団法人国際数理科学協会(ISMS、International Society for Mathematical Sciences)は、故清水辰次郎氏(大阪府立大学名誉教授、神戸大学名誉教授、東京理科大学名誉教授)が、1948年 (昭和23年)1月に創刊した、応用方面の数理に関する英語論文を掲載する雑誌「Mathematica Japonica」(「M.J.」誌)の発行主体として、半世紀以上にわたって国際的に活動してきました。この「M.J.」誌と、その姉妹誌で電子Journalと Paper誌とを持つScientiae Mathematicae(「SCM」誌)については、国内外からの高い評価が与えられておりました。近年、この両誌は合併して、「21世紀MJ/SCM New Series」である「Scientiae Mathematicae Japonicae」(SCMJ)に新たに改編されて、その電子版は2000年9月より、印刷版は2001年1月より、(昨年までは、)これまでと同様に、年間6冊、1200頁(変更あり、後述)の出版を続けておりました。
 本誌の印刷版は、世界各国の図書館に広く配布されています。現在、Board of Editors (編集陣)には、国内(31名)だけでなく、海外の著名な研究者(46名)が参加しており、そして、国際的に有名な研究者によるアドバイザーInternational Advisors(13名)と Honorary Editors(2名)が監修するという編集体制です。本誌への投稿には、(窓口として)Editorによる迅速な査読形態がとられ、投稿論文は accept (または組版)のあとに、電子版が待時間0で発行されます。本誌を通じて世界のResearch Group (研究グループ)に論文が紹介されたり、積極的な交流が推進されています。
 本誌には、有名な数理科学者のoriginal paper (原著論文)や、研究に役立つsurvey (研究状況の把握)が掲載され、International Plaza欄には、世界の有名数理科学者による、極めて興味あるExpository Paper (解説記事)を掲載しています。
 本協会がReciprocity Agreement(互恵協約)を締結している団体は、ヨーロッパ数学会(EMS、European Math. Soc.)、フィンランド数学会、オーストラリア数学会、ポーランド数学会です。
 研究仲間が、ゆっくり時間をかけて、発表、討論をする特色あるISMS の研究集会として、「国際数理科学協会年会」が毎年、開催されています。年会は、非会員も含む多数の参加者に、活発な研究交流の場を提供しています。日本数理科学協会(JAMS)の時代から引き続いて、国際賞、学術賞、そして協会清水賞も、長く、この場で贈賞されてきました。
 なお、本協会の名称は、時代と役割に合わせて、これまで数度改変されました。1977年(昭和52年)に「数理科学研究会」、1982年(昭和57年)「数理科学協会」、1987年(昭和62年)「日本数理科学協会」、そして、2005年(平成17年)から、現在の「国際数理科学協会」という名称が使われています。
 ISMSの会員は、「SCMJ」電子版の購読が無料になるほか、「SCMJ」 print版も少額で購入することができます。
 本協会につきまして、会長の長尾壽夫(ひさお)氏にお話を伺いました。

Q1: 本協会の特徴は、半世紀以上の歴史がある英文誌「SCMJ」誌の発行という大変にユニークな活動を中心にされていることです。長尾会長は、本協会を非会員にご紹介されますとき、どんな風に説明をしておられますか。

 本協会のご紹介に際しましては、終戦直後の1948年 (昭和23年)に、英文誌「Mathematica Japonica」(M.J.)を個人の力で創刊された、清水辰次郎先生の経歴について、お話を始めたいと思います。清水先生は、大正13年3月に、東京帝国大学理学部を卒業され、同学部助手となられたのですが、その時期には、当時東大数学教室内にありました日本数学会のお世話も、清水先生が、いろいろされたということです。ちなみに、先生と日本数学会との関係は最晩年まで続き、同学会応用数学分科会では90歳になるまで、先生は研究発表を続けておられました。主著は、「非線型振動論」(1965年、培風館)です。1992年に95歳で、惜しまれつつ逝去されました。  1932年(昭和7年)に大阪帝国大学が創立され、その創立委員であった東大高木貞二先生の勧めで、清水先生は阪大教授として赴任されました。そして、50歳のとき、大戦後の窮乏と混乱のさなかに私費を投じて、当時ほとんど無かった数学研究発表英文誌として「M.J.」誌を創刊されました。調べてみると、他数学会の英文誌発刊よりも、数ヶ月先行しています。同誌には、河田敬義、小平邦彦、小松勇作、松下眞一、州之内源一郎、矢野茂樹、矢野健太郎、森田紀一、吉田耕作等々、後の世界の数学を担う多数の方々が投稿され、戦後の日本の数学研究を広く世界に告知しました。清水先生は阪大教授のあと、神戸大学教育学部教授、浪速大学(現大阪府立大学)工学部教授、東京理科大学理学部教授を歴任されました。  さて、「M.J.」誌を海外の学会に寄贈致しますと、本誌は、しかるべき外国の図書館などに蔵書されると同時に、先方の学会誌を贈って貰えます。その学会誌などは、丸善などを通じて購入すると高価でしたから、大学図書館などの蔵書を充実させるのに大変役立ちました。また、本協会の運営面から見ても、長く本協会を支えて頂いた、大阪府立大学、大阪教育大学、大阪大学工学部、同基礎工学部、 大阪女子大学(現在は大阪府立大学に編入)に寄贈されて各大学の図書館を充実させ、ある期間は、(おそらく)各大学の図書購入費から本協会の運営費を支援して頂いていた時期があったようです。各大学が独立行政法人となってからは、これらの支援関係は無くなりました。  「M.J.」誌(現在の「SCMJ」誌)は、2008年7月号で通算250冊を数え、日本最大の英文数学誌です。現在、国際的に有名なInternational Advisors(13名)、Honorary Editors(2名)が本誌を監修し、Board of Editorsには、国内(31名)だけでなく、海外の著名な研究者(46名)が参加しています。  一例として、SCMJ誌、2008年7月号の目次を挙げておきます。
 さて、国際数理科学協会(ISMS)は、このような英文誌を半世紀以上発行していることを最大の特徴としている協会で、応用方面の数理に関心を持つ多様な研究者が集まっています。  「M.J.」誌の発行と共に、数理科学の振興をはかる目的のもとに、(先行した「数理科学研究会」を母体として)1982年に「数理科学協会」が発足し、2005年から「国際数理科学協会」という名称が使用されています。  また、国際数理科学協会年会も活発に行われており、2011年度は8月に、「統計的推測と統計ファイナンス」分科会と「確率モデルと最適化」部会の研究集会を並列に開催して、大阪大学基礎工学部を会場に活発な研究発表が行われました。

Q2: 長尾会長のご研究の概要を、ご説明下さい。また、会長はどんなきっかけで、この協会に入会されたのでしょう。

 私は徳島の出身ですが、1961年に広島大学理学部数学科に入学して、68年に同大学の助手となりました。専門は、数理統計学です。71年に、熊本大学教養部の助教授になりました。実は、熊本大学の図書館で、初めて「M.J.」誌に出会いました。日本発の数学英文誌という書籍自体が、珍しいと思って眺めていました。
 このあと、78年に筑波大学の助教授になり、87年に、大阪府立大学工学部に教授として赴任しました。本協会の事務局が、その当時府大の中にあったことから、(当時の)理事長の石原忠重先生や、協会のお世話をされていました府大の数理工学科の先生たちとご一緒に、この協会に携わることになりました。これが、私と本協会との出会いです。この時期に、本協会も、それまでの「数理科学協会」から「日本数理科学協会」に改名されています。
 ところで、1948年に私費を投じて「M.J.」誌を創刊された清水辰次郎先生が92年に逝去された後、清水先生の奥様が訪ねてこられて、石原先生に「夫の志をつぶさないよう宜しく」と言っておられたというお話を、石原先生より伺いました。
 さて、私の研究のご紹介ですが、「多変量正規分布の共分散行列に関するいくつかの検定とそれらの漸近分布」という数理統計学の論文では、American Journal of Mathematical and Management Sciencesの「Jacob Wolfowitz Prize」を1990年に受賞しました。最近では、SCMJ誌に掲載しました”The proof of independence of marginals for k x l contingency table”(SCMJ vol.70 no.2, 2009)などが、主要な論文になります。
 そのほかに、「ジャックナイフ法による多次元非正規分布の共分散行列の固有値、固有ベクトルに関する推定及び検定」、「正規分布、多次元正規分布に於ける平均値、平均ベクトルの逐次点推定」などについての研究を、行なってきました。

Q3: 今後の本協会の向かわれる方向について、お尋ねしたいのですが。

 良く知られている通り、数理科学は、理学、工学、医学、経済学、経営学など隣接分野からの不断の要求があって、それに応えてきました。ところで、21世紀に入ってからの隣接学問分野は進歩がすさまじく、これに応じた新しい数理科学が求められています。例えば、医学生物学の学問分野の知見は、医学関係の方たちだけで研究されていたときは、それなりの限界を有しておりましたが、コンピュータ上の数学モデルで記述されることによって、生物学上の機能や反応が、数理的に説明できたり、学習できるようになりました。
 本協会には、応用方面の数理に関心を持つ、本当に多岐にわたる分野の研究者が集まっておられます。これからも、SCMJの論文などを通じて、数理科学の隣接分野は、どんどん開拓されてゆくことでしょう。例えば、Operations Researchや経済学の論文も、本誌には早くから掲載されました。今日では、インターネットが相当に普及をしておりますが、海外の学会は、印刷した論文集も発行を続けています。また、日本から送った学会誌も、きちんと保存、公開してくれています。
 本協会では、これからも印刷された英文誌を中心に、活動を続けて参ります。残念ながら、大学の法人化によって、諸大学からの運営費の援助が打ち切られました。また、学会誌の交換によって送られてくる大量の貴重な海外の学会誌が、この事務局の所蔵能力を上回り始めており、これが今の悩ましい問題です。国際的に良く知られている数理科学関連学会の学会誌に関心をお持ちの大学図書館などの関係者の皆様は、是非ご連絡を頂きたいと思います。
 学会誌に関しては、この他、投稿論文の減少をくい止める方法についても模索しているところです。しかし、残念ながら印刷版は、今年度より年間3冊の発行を予定することになりました。
 一方、「国際数理科学協会年会」を始めとする本協会の学術的会合では、非常に活発な研究発表が行われています。ここには、昨年の年会のプログラムをご紹介致します。また、TV会議システムを用いた海外との Video Conferencesの実績もあり、今後が楽しみです。  本協会は、これからも、日本で一番歴史のある数理科学の英文誌の発行主体として、活動を続けてゆきたいと考えております。なお、本協会のホームページには、「国際数理科学協会会報」をPDFファイルで公開しておりますが、この会報には、広く会員とは関係なく諸先生方に、様々のトピックスや解説記事をご執筆頂いて掲載しており、大変好評です。数理科学に関心をお持ちの横幹連合の会員学会の皆様も、是非覗いてみて頂ければと思います。


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