横幹連合ニュースレター
No.036 Feb 2014

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
イノベーションと横幹技術  
*
東京工業大学名誉教授 長田洋
■活動紹介■
●第5回横幹連合コンファレンス参加報告
■参加学会の横顔 ■
◆【横幹連合10周年企画】
【横幹技術フォーラム】掲載ページ
■イベント紹介■
◆「横幹連合定時総会」
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.036 Feb 2014

◆活動紹介


第5回横幹連合コンファレンス 参加報告
安藤英由樹(大阪大学)
(日本VR学会ニューズレター2014年1月号 http://www.vrsj.org/newsletter/5048/ より転載。同学会のご好意に感謝します。)

【活動紹介】

  2013年12月21日 (土)~23日 (月) の3日間、香川県高松市にある香川大学幸町北キャンパスにて、第5回横幹連合コンファレンス が開催された。今回のテーマは「異分野の新結合と知の創造 ~うどん県発・地域ブランド創造による地域活性化~」と、開催地ならではのものであった。筆者は今回初参加だったので、そもそも何のコンファレンスなのかを尋ねたところ、横幹連合(正式名称 特定非営利活動法人「横断型基幹科学技術研究団体連合」)とは、単独の学会ではなく、文系理系にまたがる複数の学会が、自然科学とならぶ技術の基礎である「基幹科学」の発展と振興をめざして団結したものであり、限りなくタテに細分化されつつある科学技術の現実の姿に対し「横」の軸の重要性を訴え、それを強化するための様々な活動を行うことを設立趣意としている、ということを教えて頂いた。
  また、今回のコンファレンスは、発表件数 139件、参加者数 229名と、先回よりも約 20%増であった。特に今回は、横幹連合の設立10周年にあたり、吉川弘之名誉会長による記念講演「領域の統合」(注1)や獅山有邦名古屋大学教授の基調講演「地域の現場から横断的基幹技術の新展開に期待する」、そして参加各学会の選りすぐったオーガナイズド・セッションなど盛りだくさんな内容(注2)であった。
  率直的な感想として、発表者は若い学生というよりも、まさに先端分野の第一人者として活動なさっておられる先生の発表(もしくは近年大学を抜けられてなおかつ活発に活動されておられる著名な先生)が多く、非常に聴き応えがあった。ただ、7つものパラレルセッションとなっているため、私が主に参加したのは、新結合・創造のための人材育成、ヒューマンインターフェイス/バーチャルリアリティ(HI/VR)における新結合・創造、などであることをあらかじめ申し上げておきたい。これらのセッションにおいても、人材育成、HI/VRに「新結合・創造」が加わることで、発表内容は単に研究発表にとどまらず、研究者個人としての信念、思うこと、方向性などが多く含まれており、通常の学会では聞くことができない、とても有意義な内容であった。他にも多くの発表・講演が「基幹科学」を社会的な基盤や発展を支えるために必要な科学であるとして、その観点から、これからの日本をどうして行くべきかという視点が意識されており、ある意味での様々な本音を拝聴することができる大変よい機会であった。
  今回私は、都合により参加できなかったが、「うどん打ち体験」「直島見学」などエクスカーションも大盛況であったようである(注3)。このコンファレンスは基幹科学を通じて、様々な分野と関係性をメタ的に理解することができ、ある意味自分自身の立ち位置を確認・追認するためにも大変貴重な経験となった。このような体験には、もっと若い人の参加が広がっていくことが、今後望まれる。
 次回の第5回横幹連合総合シンポジウムは2014年11月29日(土)~30日(日)に、東京大学 本郷キャンパスで行われる予定である。

(注1)先ずは、横幹第7巻第1号に掲載された吉川弘之名誉会長の寄稿「横幹の体幹」 「横幹の体幹」 から、その一部を抜粋して引用する。

  18 世紀から20世紀にかけて、事実の科学は「自然科学」、使用の科学は「設計科学」、意味の科学は「社会科学」として、それぞれ個別に体系化が進んできた。科学的知識には普遍性が重視され、事実知識の比重ばかりが高くなった。さらに、事実知識は社会的な意味から切り離されてしまい、地球環境も制御や保全の対象とはまだ考えられていなかった。・・・しかし、機械工学があるから機械装置を作る、電気工学で電気装置、という考えは、(今日の社会では)もはや通用しない。・・・問題構造は逆転し、例えば環境に負担をかけずどこでも入手可能な低価格エネルギーというような、はっきりとした機能的定義が与えられた欲しいものがまずあって、それに応える知識が求められるという順序である。この場合、知識には多くの領域が必要となる。
  しかし・・・作ってほしいという具体的要請が社会から出されるまでただ待っていればよいのか・・・。待っていて要請されるままに作っているのでは受動的であり、科学の持つ自治のもとでの自発性という本質を失ってしまう。横幹連合が異分野の協力で社会からの要請にこたえる準備を整えたとしても、要請を待っているだけでは受動的な社会装置にすぎない。しかしだからといって、作れるものだけを作ったのでは、機械工学があるから機械を作るというのと本質的な差異はない。
  このようにして到達するのは、社会の要請とは何かを、作る主体である工学、技術の側で理解する必要があるとする視点である。その理解は、受動的なものだけにとどまっているのでなく、自ら発見するものである。私(吉川氏)はそれを、科学技術に対する社会的期待と呼び、「社会的期待発見研究」という仕事が科学技術の分野に必要な時代になったと考えた。

  ところで、今回の吉川氏による記念講演「領域の統合」の冒頭では、上記の「社会的期待発見研究」への志向が、17世紀のデカルトの著作に既に含まれていた、という驚きの事実が指摘された。氏によれば、デカルトの『方法序説(正しく理詰めに真理を探究する方法の考察)』や『精神指導の規則』の中には、「充分な順序正しい枚挙(帰納)」と併せて「綜合」(「設計学」の synthesis)が、真実の判断についての研究には目的とされなくてはならない、とされているのだという。具体的には、何らかの真理を発見するための方法として、「複雑な不明瞭な命題を、段階を追うて一層単純なものに還元し、しかる後、すべての中最も単純なものの直観から始めて、同じ段階を経つつ、他のすべてのものの認識へ、登り行こうと試みるならば、われわれは正確に方法に従うことになるであろう(規則第5)とデカルトは記述している」と、このように吉川氏は読み上げた。「登る」(綜合する)ことが、帰納の先には必要なのだ。
  氏は、この指摘に続いて、現在の「エンジニアリング」(栽培された思考)と比較して、人類学者のレヴィ・ストロースが「ブリコラージュ」と呼んだ「野生の思考」、世界各地に見られる、端切れや余り物を使って、その本来の用途とは関係なく、当面の必要性に役立つ道具を作るという工夫が、人類が古くから持っている知のあり方であったことにも言及された。以下は、注釈者の私見による例えで恐縮であるが、デカルトがもし、福島第一原子力発電所を解説する科学番組に評論家として登場した場合には、エンジニアリングだけでは問題解決の、まだ半ばなのだと力説する姿が想像される。その理由は、エンジニアリングが「帰納」によってのみ構築された技術体系の段階に留まっているためである。デカルトも、レヴィ・ストロースの知見を知れば、「エンジニアとしての知識を備えた上で、ブリコラージュのできる技術者」(ブリコヌール)こそが、21世紀の人類にとって真に有用な装置を開発できる人材であることを直観し得たのではないか。吉川氏はこのような内容の考察を「一般設計学」を構築する過程で続けている、と話し、科学哲学の根底に係わるこの印象的な講演を締めくくった。(注釈の文責:ニュースレター編集室。以下同じ)

  (注2)長野・京都・仙台・金沢と巡って来た「横幹連合コンファレンス」だが、今回は香川大学(高松市)を中心に、数多くの西日本の研究者たちが「地域おこし」の学際的研究について積極的に発表を行ったことが特筆される。基調講演の獅山氏が「日本が直面している閉塞的な状況を解消するためのチャレンジである横断的な科学技術という視点において、人口減少が進む地域における、持続可能な社会の構築が急務になっている」と指摘されたことも、そのことを象徴しているだろう。さまざまな印象深い発表が行われたが、眞田克 高知工科大学教授の「信頼性工学で解き明かす平家一門の衰退」は、信頼性工学を歴史解釈に活用して、横幹科学的に出色であった。清盛の継母、池禅尼が、死刑の当然視されていた源頼朝の命を救ったことを「初期故障期における欠陥の顕在化の失敗」と捉えてみると、平家一門の衰退(戦で落命した侍の数)がLSIの製造における故障の発生数(いわゆるバスタブ曲線)に酷似しているという興味深い発表であった。それでは、政治の世界においても LSIの工場のように、邪魔者をひたすら抹殺すれば良かったのか。これに関して、眞田氏は発表の冒頭に、壇ノ浦の戦いで幼い平家の安徳天皇が、入水して崩御されたと公式の歴史には書かれているが、地元には「平家の隠れ里」に安徳天皇が逃れて成長されたという伝承があることを紹介された。この伝承が事実だったとしても、源氏側が知っていて追わなかったのかどうかは不明である。しかし、信頼性工学を学際的にあてはめることで、人間が作る歴史の因果の不思議さがあぶりだされた瞬間でもあった。地元四国ならではの見事な発表で、「うどん打ち体験」参加者のバスの中でもひとしきり話題になった。

  (注3)「直島めぐり」と「うどん打ち体験」は、ニュースレター前号の香川大学大学院地域マネジメント研究科板倉宏昭教授の巻頭メッセージ に予告されていたが、大変盛況に開催された。「直島めぐり」は、朝9時半に高松港を離岸し、15時には再び港に戻って高松空港に急行するという超過密スケジュールではあったが、オフシーズンであったことから、「家プロジェクト」「安藤忠雄美術館」「ベネッセハウス」「地中美術館」という、2日掛けても廻りきれないとされる直島の有名観光スポットをすべて巡り(要予約の「家プロジェクト」の1軒を除く)、ベネッセハウスのレストランでの落ち着いた雰囲気のランチ(美味!)までもゆっくり賞味する時間の余裕があった。ハイシーズンには、家プロジェクトの各家での待ち時間が一時間以上になることも珍しくないという。今回案内役を務めたのは、「直島」に大変詳しい香川大学経済学部の谷口知美さんで、参加者からの質問にも対応した。東京ディズニーランドでは来場客の約6割が近隣地域のリピータであることによって運営が確保されているのと同様に、直島でも、家プロジェクトについては地元の方の入場を無料にして、観光客の誘致を図っているという。板倉研究室からの事前の連絡で、各美術館ではキュレーターの皆さんに、ていねいに作品案内をして頂いた。「直島」は、地域おこしの観点からも大変に興味深い成功事例であり、本当に参加して良かったエクスカーションであった。「うどん打ち体験」も、大勢の参加者で盛り上がった。香川県特産の讃岐うどんは、他県の「手打ち」麺が上腕筋の力で「こし」を作るのに対して、足踏み製法で独特の「こし」を作っている。小一時間の講習ではあったが、足踏み製法のやり方が効率よく伝授され、おみやげまで貰えて、「中野うどん学校」を全員がめでたく卒業した。うどん好きの参加者は、翌日からさっそく足踏みしたうどんを自作して数日間続けて賞味したそうだ。

図1
 
<家プロジェクトの一軒>



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