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横幹連合 広報・出版委員会
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横幹連合ニュースレター

<<目次>> No.042 Aug 2015

巻頭メッセージ

活動紹介

参加学会の横顔

 
生物工学・生命科学分野における横幹的アプローチの重要性と期待
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青柳 秀紀 横幹連合理事
筑波大学 生命環境系 教授
 
第44回横幹技術フォーラム

総会特別講演「合意形成の条件 - 社会学の立場から」

イベント紹介

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第6回横幹連合コンファレンス
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巻頭メッセージ

生物工学・生命科学分野における横幹的アプローチの重要性と期待

青柳 秀紀 横幹連合理事
筑波大学 生命環境系 教授  

  本年度、広報・出版委員会の委員長を拝命しております青柳秀紀です。私は、横幹連合の中では数少ない、「生命・生物系」の会員学会であります、(公益社団法人)日本生物工学会を基盤に活動をしております。本年度の広報・出版委員会の活動内容と課題につきましては、前委員長の有馬昌宏先生の巻頭メッセージ(「横幹的研究の展開と発展へと向けての広報・出版委員会の取組と課題」 No.038, Aug 2014)を踏まえて、推進してゆく所存です。ご指導ご鞭撻を、宜しくお願い申し上げます。

  現在、私は、茨城県つくば市に住んでおりますが、ここは緑に恵まれた地域ですので、休日や朝に、庭いじりをしています。土を耕し、種を蒔き、植物の成長を見守る。こうした時間は、とても楽しいものです。そして、土には、多種多様な微生物が住んでいます。土をはじめ、自然界には非常に多くの微生物が生きているのです。川や海、土や岩盤の中はもちろん、空気中、そして「極限環境」といわれる強い酸性やアルカリ性の湖や火山の火口の近く、南極やシベリアのような厳寒の場所、数千メートルもの地下や、とてつもなく水圧がかかる真っ暗な深海、そしてヒトや動物の体内や植物にまで、微生物が存在している事には驚かされます。そして、微生物は、地球上の物質循環を担う重要な生物であると共に、他の生物の健康や免疫機能にまで、その影響を及ぼすのです。また、微生物同士や、微生物と宿主(植物や動物)が、生存のために互いに助け合いながら、多様な共生系を築いて生きています。
  古来より人間は、微生物を、巧みに生活に利用してきました。酒、チーズ、パン、みそ、漬物などが代表例ですが、微生物の能力を活用してその恩恵を受けています。その歴史は先史時代にさかのぼり、今日でも私たちの食卓を賑わせてくれています。
  ところで、人間が微生物の存在に気がついたのは、顕微鏡の発明以降のことになります。17世紀後半にオランダのレーウェンフックが「顕微鏡」を組み立てて、微生物(原生動物や細菌)をはじめて観察することができました。以後、顕微鏡の技術開発は進み、様々な細胞の観察研究が発展しました。また、細胞の培養学も発展しています。かつて、人間は、酒造りの元となる麹菌などは、その存在を知らずに、経験の中で使っていました。そして、「こうすれば、もっと美味しくできる」という事を、経験の中で、微生物が働きやすい環境を作ることによって見つけてきたのです。しかし、微生物が発見され、その研究が進むにつれて、「様々な発酵現象が、微生物の働きによる」ということが、フランスのパスツールによって19世紀に明らかにされ、その培養法も開発されました。19世紀後半には、ドイツのコッホが、炭疽症の病原菌である炭疽菌の純粋培養に成功し、寒天平板培養法を開発しました。この画期的な培養法により、目的とする微生物のみを純粋に分離して、培養することが可能になり、これらを利活用することで、医薬品、機能性食品、食品および化成品の生産、肥料や農薬、バイオ燃料の生産、環境浄化などに成果が見られるようになったのです。こうして、生物関連産業は大きく発展し、豊かな生活環境の構築に貢献してきました。
  さて、ここまで述べてきたように、私達は、今日まで莫大な種類の微生物を、自然界から単離、培養してきました。その結果、私たちは、自然界に存在する大部分の微生物を培養できたと、つい考えてしまっていたのです。なぜなら、これまでの方法でどんなに培養を繰り返してみても、新しい微生物が発見できなくなってきていたからでした。
  ところが、私たち生物工学の専門家でさえ、大変に驚くようなことが、最近明らかになったのです。それが、“ダークマター微生物”の存在です。

  近年、遺伝子情報(DNAの塩基配列)をベースにした解析方法が行なわれるようになった結果、従来法で単離培養できる微生物の種類は、驚いたことに、自然界に存在する微生物のわずか1%前後にしか過ぎないことが明らかになりました。(実は、微生物関連産業界でも新規有用微生物が獲得されにくくなっていることが大きな問題となっており、産業の閉塞状態を生み出していたのです。)自然界に残された99%の微生物については、その全容が、ほとんど明らかにされていないため、総称して、“ダークマター微生物”と呼ばれているのですが、この“ダークマター微生物”の獲得・活用を目指して、現在、世界中で、熾烈な競争が繰り広げられています。なぜなら、“ダークマター微生物”を活用することによって、新たな医薬品、食品や化成品の生産、環境低負荷型の肥料や農薬、環境浄化、環境低負荷型バイオ燃料生産など、微生物関連産業の活性化や、人類が直面している様々な問題の解決への貢献が期待できると分かってきたからです。
  従来法では培養できなかった“ダークマター微生物”を取り扱うためには、これまで受け継がれてきた手法や考え方だけでは対応することができません。そのため、こちらから(生命科学の側から)積極的に工学、理学、薬学、医学などの異分野と交流し、これまでとは異なる視点・発想を学ぶことで有効な方法論を開発・活用する、横幹的アプローチが必要となるのです。「こちらから」が大切です! なぜなら、「あちらから」来るケースは極めて少ないからです。実は、微生物の課題に限らず、生命科学分野では、分子レベルの物質や遺伝子から細胞、組織、個体、集団、生態系のいずれのレベルにおいても“ダークマター”的な課題が多いことが、近年、改めて認識されていたのです。未解明で全容がほとんど分からない課題に対する横幹的アプローチの重要性は、高まっていると言えるでしょう。
  また、横幹的アプローチは、基礎的知見を基盤にして、実用化へと展開する際にも重要です。バイオテクノロジー産業発展の必要性が叫ばれ、基礎研究が推進されてきましたが、近年、これまでに得られてきた莫大な基礎的知見を「産業化」へと結びつけることが、国内外を通じて、社会的に強く求められているのです。
  しかしながら、現状では、基礎的知見を産業化につなげるセンスを有するような研究者、技術者は少なく、人材育成が重要です。日頃の教育研究を通じて、なんとなく感じる点なのですが、応用的学問分野の先端科学・技術の大学院生や研究者が、「応用分野の研究者」でありながらも、専門性にとらわれすぎて狭い領域に落ち込み、隣接分野との関係、つながり、研究の最終目的に至る道筋など、全体像を見るセンスに欠けている点が時々見受けられるように思えます。こうした、全体像を見るセンスを身につけた学生、与えられた課題が、どれほど困難であっても、自力でその問題を解決していく意識や能力を身につけた個性豊かな学生の養成が、今後重要だと思うのです。 従って、人材育成の面においても横幹連合の役割や重要性は、将来に向けて、ますます大きくなります。次世代への横幹的理念の継承性も重要になるでしょう。ただ、もちろん、変わってゆくことが大切な部分と、逆に、変わらないでいることが大切な部分があることにも注意が必要です。
  そしてまた、学生の側も、自身の研究が未来の社会に何を創出できるのかを考えながら、研究を行なって欲しいと思います。

  今日、人間は、 人口増加に伴うエネルギーや食糧問題、種々の汚染や(地球)環境問題、医療問題、グローバル化の問題など、さまざまの問題に対峙しており、解決の必要性が叫ばれています。現在の快適性、利便性、経済性をあまり損なうことなく、それらを解決できる現実的な方法論、システム、技術の開発が求められており、それらを生み出すためにも、横幹的アプローチは有効です。しかし、多種多様な場面で横幹連合や横幹的アプローチの重要性が増している一方で、それを実のあるものにするための課題もまた、存在すると思われます。
  例えば、一つの大きな課題の解決を通して、横幹的な連携を深めることは有効だと思われます。しかし、同時に、様々な分野が横幹的に協力して、相乗効果を発揮し、結果を出すためには、お互いを理解、尊敬する関係を構築することが重要であるように思えます。(お互いへの興味だけでの結びつきは脆く、長続きせず、結果的に新たなものを生み出すには至らないケースが多い気がするからです。)
  このような意味からも、国内外に横幹連合の存在や活動を知ってもらう広報・出版委員会の存在は、ますます重要になっていると思われます。横幹連合の広報・出版委員会として、今後の横幹連合の発展の一助になる活動にはどのようなものがあるか、機会あるごとに考える今日この頃でございます。

 

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