横幹連合ニュースレター
No.044 Feb 2016

<<目次>> 

>■巻頭メッセージ■
『横幹〈知の統合〉シリーズ』刊行に寄せて
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横幹連合副会長
学習院大学 法学部教授 遠藤薫
■活動紹介■
●第46回横幹技術フォーラム
■参加学会の横顔 ■
第6回横幹連合コンファレンス参加報告
■イベント紹介■
◆第7回横幹連合コンファレンス

■ご意見・ご感想■
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.044 Feb 2016

◆活動紹介


【活動紹介】  第46回横幹技術フォーラム
総合テーマ:「第6次産業への取り組み ‐複数システムの連携による価値構築-」
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第46回横幹技術フォーラム

総合テーマ:「第6次産業への取り組み ‐複数システムの連携による価値構築-」
【企画趣旨】 最近 TPP問題がマスコミで取り上げられており、日本農業への不安と期待が議論されている。この時流を受けて、農林水産省に於いても、「農山漁村の6次産業化」と称し、1次産業が 2次産業・3次産業を取り込み、複数の関連したシステムを活用して有機的・総合的結合を図る「1次産業の振興による地域経済の再生」を企画している。また、メーカーに於いても、産業設備の転用や農業生産装置の提供といった複数システムの連携が図られ、農水産業を含めた新たな価値が構築される社会の建設に向けてのメーカーからの貢献が行なわれる良い機会になるように思われる。そこで、閉塞感のある日本の経済状況を打ち破るため、日本経営工学会西関東支部では研究部会を立ち上げ、第6次産業について経営工学の視点からの検討を行なっている。 今回のフォーラムでは各方面から専門家を講師として招き、6次産業化への様々なトピックを取り上げて、現状の課題についての議論を深める講演会として企画した。なお、今回は、日本経営工学会 西関東支部との共催である。

日時: 2015年11月7日
会場:日本大学経済学部7号館9F 7091室
主催:横幹技術協議会、横幹連合、日本経営工学会 西関東支部

◆総合司会 藤川裕晃(東京理科大学)
◆開会あいさつ 桑原洋(横幹技術協議会 会長)

◆講演1「第6次産業の課題と複数システム連携による価値構築」
 藤川裕晃(東京理科大学)
◆講演2「日本の農業の現状と提案~コメが人類を救う」
 尾ノ井憲三(元 ヤンマー ㈱)
◆講演3「第6次産業とICT活用」
 堀川三好(岩手県立大学)
◆講演4「農産物の流通の在り方」
 野見山敏雄(東京農工大学)
◆講演5「植物工場のエンジニアリング」
 山中宏夫(大成建設 ㈱)

◆閉会あいさつ 出口光一郎(横幹連合 会長)

(敬称略)

プログラム詳細のページは こちら

【活動紹介】
 採録・構成 武田博直 (横幹ニュースレター編集室長、日本バーチャルリアリティ学会)

  2015年11月7日、日本大学経済学部7号館において、第46回横幹技術フォーラム「第6次産業への取り組み ‐複数システムの連携による価値構築-」が開催された。今回の横幹技術フォーラムは、最近注目されている「第6次産業」への取り組みについて、その動向を知ることのできる大変に貴重な機会となった。全体のコーディネートは、藤川裕晃氏(東京理科大学)が行なった。

  さて、「6次産業化」とは、具体的には何を指すのだろう。講演4「農産物の流通の在り方」の中で、野見山敏雄氏(東京農工大学)は政府の「産業連関表」を用いて、これを分かり易く解説した。

                    (図A)

  図Aの「産業連関表」(最新版は2005年のもの)を見ると、食用農水産物(1次産業)の国内生産額については、近年既に、わずか9兆4000億円でしかない。この金額は、日本の人口が 5年連続で減り続けていることや、その人口のうちの更に「生産年齢人口」が 1995年をピークとして長期の減少傾向にあり、またこの年齢層が一番食事を多く食べている層でもあることを考え併せると、食用農水産物の「国内生産・国内消費」の金額については、共に、長期の減少傾向にあるという事実が人口動態からも指摘できるという。従って、「飲食費の最終消費」の金額のうち生鮮品等の消費額の 13.5兆円についても、今後、長期にわたって「減る」ことはあっても「増える」可能性は無いそうだ。つまり農家が、例えば、スーパーの店頭などで売られている生鮮品ばかりを作っていたとしたら、いくら味の良いものを工夫したとしても、将来の収入の見通しは、かなり「暗い」ことになる。野見山氏は、そう指摘した。

  そこで、この傾向に危機感を抱いた農水省は、1次産業の農家が、2次の(工業的な)加工技術や 3次の(流通などの)サービス技術を、農水産物の生産技術に併せて「身に着ける」ことによって、最終消費の73兆6000億円のうちの「加工品」(その約53%、具体的には道の駅のおみやげなど)や「外食」(その28.5%、産直レストランなど)をできるだけ農家が、自らの経営(1次産業)に取り込むことによって、1次×2次×3次、すなわち農家の「6次産業化」を行なって、農家の 1次産品の出荷額に「付加価値」を付けることで、農家の平均収入を高めることを推奨している、というのだ。

  このため、農水省は、2010年12月に 「六次産業化・地産地消法」を公布して、啓蒙に努めているという。この背景には、2000年6月に、雪印乳業による加工乳の食中毒(約1万5000人)が発生して大きな社会問題になり、消費者に「食の安全」に対する意識の高まりが見られたことが契機としてある。このときから「地産地消」が全国で注目を集め、「道の駅」などでの POSシステムなどを利用した農家の直販に関心が集まり始めたという。野見山氏は「地産地消」についての評価として、① 流通時間が節約できることで、鮮度がよく適熟品の取引も可能になったこと。② ビニール袋などで簡便に販売できるので、余分な輸送のための包装資材が省け、流通コストも削減できること。③ 零細農家、高齢農家、また、特に女性たちの個々人が工夫した商品開発や生産による小ロットの生産であっても出荷先・現金収入が確保できることから、農協共販のような大掛かりな流通の仕組みが不要になったこと。更には、互いの「顔が見える」売買によって、生産者と消費者の相互信頼が生まれやすいことなどをメリットに挙げた。他方、デメリットとしては、① 市場圏が狭く受給調整が難しいこと。② 取引可能な品目が限られ、品揃えが難しいこと。③ 当然、周年的な取引が難しいこと。④ 気象変動で出荷できなくなる場合があるし、価格も乱高下しやすいことなども挙げられるそうだ。また、野見山氏は最近の傾向として、⑤ 農産物の直売所間の競合が激化した結果、農産物直売所が大規模化し、小規模農産物直売所が減少していることも指摘した。また、野見山氏が独自の調査を行なったその実態の聞き取り調査などからは、餅や饅頭などの農産加工事業を始めた農家が、農産物直売所が大規模化して周年営業するようになったことで加工部門が本業化して、原料の調達を外部(県外など)から半加工の材料を仕入れて行うようになったことが分かったという。しかしそれでは、大規模スーパーマーケットと、ほとんど変わらないので、スーパーとは異なる農産物直売所らしい設立理念や経営理念について、構成員一同で確認する必要があると野見山氏は指摘した。(なお、野見山氏自身は「地産地消」のあり方を次のように考えているという。できれば、市町村の中で需要と供給をマッチングさせることが望ましい。しかし、足りないものは県内。県で足りないものは、関東圏とか東北・九州といった地方。最終的には国境の中で、生産と消費を結びつけるよう心がけたい。しかし、北海道のように生産が多く人口が少ないところでは物が余るので、余ったものは外に出す・足りないものは入れる、という「半開放の自給圏」が、農産物については望ましいと考えているという。)

  ところで、岩手県立大学の堀川三好氏の所属する研究室では、学生が主体的にチームを組んで問題解決にあたる「プロジェクト型学習」(Project-Based Learning)として、第6次産業への「ICT活用」に 2006年から取組んできたという。具体的には「道の駅」などの JAの産直の場所などで、学生が「売上情報・在庫情報」などの産直を支援する PCのシステムを開発し、その効果を実際に使うことで検証したそうだ。実は、このシステムが稼働するまでは、年間に何がどのくらい売れたかの実績を把握することなども殆んどできていなかったという。堀川氏によれば、本システムは、先ず「商品(価格)ラベル」の簡便な自動作成機として普及し始め、値段が幾らのときに在庫の滞留時間がどのくらいだったか、などが分かる「価格決定支援」機能のグラフなども使用者からの要請で開発されたという。そして、一通りやりたいことができるシステムの構築までに 7年の時間が掛かったそうだ。そして、ここで開発された手法、例えば、商品補充のために販売状況を知らせるメールが 1日に数度届く、などといったICTの活用は、産直販売の提供者にとって生産・販売に対するモチベーションを確実に向上させており、今週は何が売れているかのランキングリストが作成される、などの、このプロジェクトで開発された手法がいくつも真似されて、全国の産直所にシステムとして普及して行ったのだという。

  また、ICTの活用は、農業だけでなく、水産業や酪農にも大変に役に立つことが分かったと堀川氏は指摘した。例えば、魚の場合は、プロの撮った写真をブログなどにアップするだけで、ベテランの料理人には魚の鮮度や適正価格まで分かるのだそうだ。ただ、法律で、定時・定質・定価・定量に関する水産業者の役割が決められているという場合が多く、その仕組みが簡単には変えられない問題が水産業にはあるという。また、酪農や畜産についても、ICTの活用と親和性が非常に高く、例えば、監視人(作業員)の日誌を蓄積・管理することで、放牧や家畜検査を効率よく進められることなども明らかになったそうだ。

  また、山中宏夫氏からは、講演5「植物工場のエンジニアリング」と題して、大成建設が行なってきた「植物工場」のシステム開発について、その経験が披露された。山中氏は同社で植物工場の開発が始まった1998年からこの事業に従事しており、2001年の「神内ファーム21」(北海道樺戸郡浦臼町)では大型の温室型の植物工場(9000㎡)を稼働させ、その後、神奈川県に展開された同社のアグリベンチャー(藤沢市と秦野市の2カ所に夫々1500㎡の閉鎖型施設を設置したという)でも、設計・開発、生産品の販売ルートの開拓に従事してきたという。こうした努力の結果、同社は「植物工場」に関して、あらゆるコンサルテーションに対応できるようになったそうだ。販路の開拓のためにスーパーの試食販売コーナーに山中氏が立って、消費者に、おいしいことを理解して貰う努力までしてきたという。

  山中氏によれば、植物工場は、当初は、温室型(太陽光利用型、日照時間の不足を蛍光灯などで補う方式)が多かったそうだが、やがて、閉鎖型での実験を重ね、大成オリジナルの LED植物工場ユニットでは、従来の蛍光灯式の 36%以下の電気代で閉鎖型による生産ができるようになったという。これは、国際的にも日本がリードしている技術であるそうだ。ちなみに、改装された銀座2丁目の伊東屋本店では、最上階のカフェで使用される葉物をすべて、一階下のフロアの閉鎖型の植物工場で生産している(見学もできる)という。ビル産ビル消である。また、「いなしきスクーファ」(茨城県稲敷市)では廃校になった小学校舎を市が無償提供して、植物工場にするという取り組みも始まっているという。なお、東京農業大学総合研究所に「植物工場研究部会」という研究会が発足しており(法人会員の年会費 30000円)、関心のある方は是非入会して頂きたいとのことである。

  ところで、植物工場では、一般に葉茎類の栽培ばかりが行なわれているのだが、藤川氏が講演1「第6次産業の課題と複数システム連携による価値構築」の中で、学生が自主的に根菜類のごぼうを育成した栽培実験を紹介した。小型の閉鎖型植物工場ユニットを使用して実際に 80株を育成し、これらを遠隔地(秋田県)の露地物を輸送してきたごぼうと、味や価格について比較したそうだ。ごぼうについては、植物工場の水耕ごぼうは、現在のところ「ごぼうに全く見えない」という難点があるそうだが、栄養価・味・価格についての遜色がなく、また、輸送費をゼロにできること、リードタイムがコントロールできることなどを長所として挙げた。

  さて、話題を再び、講演4の野見山氏に戻したい。野見山氏は「6次産業化のポテンシャルを拡大して、農林漁業を成長産業化する」という農水省の狙いについて、「私見である」と断った上で、その狙いは良いと思うと評した。しかしながら、農業の工業化や農業の商業化を狙うためには、農家自身に商品開発や販路拡大のノウハウが不足していることを氏は同時に指摘した。事実、6次産業化事業に際して官民ファンドや成長産業化ファンドなどを実際に利用しているのは、ほとんどが農外企業や大きな農地組合法人で、小さなグループは、なかなか利用しづらいのだという。つまり、実態としては、食品工業(2次産業)の農業化であるとか商業(3次産業)の農業化の動きばかりが目立っているそうだ。1次農家が高齢化などの理由で衰退している中で、量の確保ができなくなった質の良い農作物を確保するために、カゴメが水耕トマトの大規模な工場をあちこちにつくることであるとか、イトーヨーカドー、セブン&アイ・ホールディングス、ローソンが生鮮野菜を供給するファームをグループ化していることなど、つまり、2次 3次が自分たちにとって調達しやすく欠品が生じないように農業化を進めている、という傾向を否定できないと野見山氏は述べた。

  ちなみに、野見山氏は、米国の「地産地消」であるファーマーズ・マーケット(朝市など農産物の直売所)についても現状を報告した。米国でも以前は、大手スーパーのチェーン店による展開などによって農作物の流通が行なわれていたという。しかし、例えば、ハリウッドは映画産業で発展した街だったが、最近は映画を殆んど作っていないこともあって、街はさびれ、スーパーも撤退したのだという。新鮮な野菜が買えないことに困って、NPO法人が立ち上がり、市役所の職員も支援して、朝の8時から13時までのファーマーズ・マーケットが立ち上がったそうだ。ここでは、新鮮で完熟した青果物が入手できるし、どこで何が生産されたのかも分かる。それをきっかけに、消費者と農家との交流も始まっているという。こうしたファーマーズ・マーケットは、今では全米に4700か所もあると紹介された。なぜ、こうした朝市を市役所が支援しているのかと尋ねてみると、市民への食育、栄養教育ができるからだという答えが返ってきたそうだ。事実、学校給食のサラダバーにも、ファーマーズ・マーケットから直接、新鮮な野菜が供給されているという。これが、米国の地産地消の現状だと氏は紹介した。

  さて、以上に要約した1、3、4、5の講演は、直接に「6次産業化」「地産地消」に関連したものであったが、これとはすこし異なる切り口から、日本農業の再生を論じたのが、「日本の農業の現状と提案~コメが人類を救う」と題した尾ノ井憲三氏(元ヤンマー、資材部購買部部長)による講演であった。

  日本農業の問題点については、① 食料自給率が39%であることや、② 農業従事者の平均年齢が66歳と高齢で、かつ新規就農者が非常に少なく農業が衰退していること、更に、③ 地方経済が、農業の衰退によって疲弊してしまっていることなどが指摘されて久しい。ところが、そもそも「農業をどうすれば再生できるのか」について、これまで明確な再生方法を述べた提言が「無い」のだそうである。そこで、尾ノ井氏は独自に研究を進めてきたという。

  まず、日本の農政については、特に大豆や小麦といった穀物についての自給率が、世界でも最低の「危機的」なレベルであることを、氏は指摘した。これに関して、農水省は、「食糧自給率については、45%や50%を目指す」「目指す」と繰り返し言い続けているそうだが、2000年、2005年、2010年の食料・農業・農村基本計画の改訂時にも食糧自給率は下がり続けていたという。全く歯止めができていないのだそうだ。つまり、日本の農業政策は、「失敗」し続けているのだという。事実、2013年の統計では、販売農家の平均総所得は 473万円(年金なども含む)であったそうだ。このうちの、農業所得は、132 万円だったという。この132万円という数字は、自営農業の平均労働時間1908時間の労働の成果だったのだから、時間当たり所得は 692円。こうした低い所得状況が続いている結果として、新規就農者が非常に少ない現状も当然だろうと氏は指摘した。

  ところが、欧米では、特に穀物自給率については軒並み高いのだという。英国でも一時期、日本同様に低かった時があるそうだが、英国がEUに加盟したことで自給率は上がったそうだ。その理由は、政府の補助金政策にあるという。EUでは加盟国に保護主義的な農業政策を義務付けており、政府の直接支払いによる農業の赤字補填が、当たり前の政策として行なわれているそうだ。しかし、日本では、これまで政府が農家に「補助金」を出そうとすると、民主党政権下では自民党系のメディアが騒ぎ、自民党政権下では野党系のメディアが「ばらまきだ」と批判するのが常だったという。

  ところで、欧米で、農家に対する政府の赤字補填が当たり前である理由について、ジョージ・ブッシュ元大統領が演説で、次のような強い言葉を使ってしばしば説明してきた、と尾ノ井氏は紹介した。「食糧自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ。食糧自給は国家安全保障の問題であり、アメリカ国民の健康を守る為に輸入食品に頼らなくて良いのは、何とありがたいことか。」また、EUでも、農業は「国の基幹産業」であると位置付けられ、「欧州各国にとって、食料の確保は軍事、エネルギーと並んで、国家存立の重要な柱の一つである」とされているという。EUでは、仮に農業を保護しなかったとすると、例えば、ロシア、ウクライナ等の安い穀物に席巻されて、EUの農家はまたたく間に壊滅する可能性があるのだそうだ。

  また、日本での農政の議論の一つとして、TPPによる関税撤廃が話題になっているが、「関税が撤廃されると米国から安い米が入ってくる」と言われている、その「米国の米」には、図に示すように米国政府からの直接の補助金が支給されているので「安く」日本に輸出できるのだという。つまり、関税を全廃したとしても「公正な競争」にはならないのだそうだ。

                    (図B)

  そこで、尾ノ井氏は、次のような農業補助を国内の農業再生のために提言した。現在の農政は、海外と「公正な」戦いができる環境を用意されていない。議論の前提として、米はどう頑張っても、1年に1回しか収穫できない。そして、主業農家の大半は稲作であり、5hr未満の農家がその94%を現状では占めているそうだ。もしも、この94%の人たちが、明日から農業を止めます、と言えば日本の農業が崩壊するという。農家の一戸当たり耕作面積は、米国の 187hrに対して、国内の平均が2.5hr(北海道でも 26hr)。こうした数字が前提なので、国内農業の工業的な効率化については望むべくもないという。従って、補助金による振興策が日本の農業再生の一番の方策であると氏は結論付けた。ちなみに、日本の米は世界的にも、「おいしい」と評価されている。また、米国や、カナダ、オーストラリアが高い食料自給率を誇っているのは、農作物を海外に輸出しているからだと説明されている。そこまで分かっているのだから、日本は「おいしい米」を輸出するために増産するという体制を全国に敷いて、国内の主業農家の平均年収についても現在の540万円から800万円くらいに増えるよう政府が補助すれば、農家の跡継ぎも都会から脱サラして帰ってくることだろうし、新規就農者も増えるだろう、と尾ノ井氏は指摘した。

  そこで、米国のように米に補助金を付して輸出可能な価格を実現するという方法を、日本でも検討してみると、現在のキロ約18000円が 8000円の定価になれば、海外でも日本米が「おいしい米」として売れるのではないかと氏は試算した。つまり、政府保証をキロ当たりで10000円付けるのが望ましいという。ちなみに、米国の「安いコメ」価格の裏側にある政府の補助金については、次のような数字があり、米国の農家への所得補償がされているのだという。

                    (図C)

  具体的な政府予算としては、現状の 8000億円の農業支援を、2.5兆円に増額する。つまり、増額分としては 1.7兆円くらいが望ましいだろう、と尾ノ井氏は試算した。これは、GDP比で現在の 0.14%という「ささやか」な政府補助を 0.45%まで増額することに国民の理解を得る、ということで、この数字は欧米に比べて決して多くないと氏は述べた。

  ちなみに、小麦は連作ができないが、米はできる。収量は小麦の 1.5倍。カロリーも 1.5倍。米は精白して 9割が残るが、小麦は 6割しか残らない。従って、「米は小麦の 8倍の人口を養える」と言う学者がいると氏は紹介した。エジプトのナイル川流域でも、日本がジャポニカ米の水耕を35年ほど前に指導して、インディカ米よりもおいしいと評価されているという。日本が、世界から評価されている「おいしい米」を中心とした農業輸出の体制を敷けば、世界での日本食の普及もまた一層進むことだろう。このような政策を中心にして、国内の米と農産物への政府保証が充実すれば、日本の農家は今後、安定した経営ができるはずだ、と氏は提言した。

  もちろん、尾ノ井氏は「6次産業化」についても「良いアイデアだ」と評価しているという。しかし、何かの経営スキルを持つ農家には良い反面、スキルのない農家には、何らかの形でサポートが必要になると氏は指摘した。また、経営的に債務超過の農家が増えてきているという現状からは、彼らが家業を止めてしまった場合に、日本の農業が崩壊して田畑も修復不可能になる危険があると氏は指摘した。そして、(尾ノ井氏の講演のQ&Aで会場から)「農業法人の活用を考えてはどうか」とする質問があり、これに対して氏は、「企業は、儲からないと耕作を止めてしまい、土地が荒れ地になってしまった事例がいくつもあるので、EUでも結局は、補助金という制度に落ち着いたのだ」と答えた。

  さて、開会のあいさつで、横幹技術協議会会長の桑原洋氏は、安倍政権下で「農業と観光」に大きな動きが出て来たこと、そして、農業に関しては、農協に頼らないで、農家が自律的に経営できるようなシステムが新しい発想で求められていることを強調した。この言葉を受けて、閉会のあいさつの出口光一郎横幹連合会長は、今回は「6次産業化」「地産地消」「日本の農業の再生」に関して大変意義のあるシステム化の議論を提供していただいたとして、コーディネートされた藤川氏と講師の先生方に謝意を示し、夫々の研究の一層の進展を祈念した。こうして、充実した今回の技術フォーラムは盛会のうちに終了した。



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