横幹連合ニュースレター
No.006, May 2006

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
「私の技術者人生と
 横断型科学技術」
江尻正員
横幹連合 副会長

■活動紹介■
【参加レポート】
第10回横幹技術フォーラム
第11回横幹技術フォーラム


■参加学会の横顔■
日本バイオフィードバック学会

■イベント紹介■
第1回横幹連合総合シンポジウム
第12回横幹技術フォーラム
イベント開催記録(2006.3〜5)

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.006 June 2006

◆活動紹介

第10回横幹技術フォーラム 参加レポート

テーマ:「感性工学が拓く新時代の商品」
日時:2006年3月30日
会場:東京大学 山上会館 大会議室
主催:横幹技術協議会、横幹連合

 椎塚 久雄 氏   

 (工学院大学 教授、日本感性工学会)

 感性工学をどのような枠組みでとらえたら良いのか、その本質は何なのか? 今回のフォーラムはまさにこの問いに対する明解な解答を与えた会であった。見込み大量生産の時代から個々人の感性を重要視する製品作りに移行しつつある時代を迎え、感性工学に対する期待は益々大きくなっている感じを抱いた。清水義雄氏の基調講演では、示唆に富んだ内容を聴くことができた。低迷する日本経済にあって、これまでの見込み大量生産の反省に上に立ってポスト工業化社会の価値として、確かなもの、安心、安全性が問われている状況の中で、豊かな絆が意味を持ち他者との関係、情報の質等に焦点を合わせて感性工学の重要性を訴えているのが印象に残った。

 次に、小阪祐司氏による講演では、主観と客観の往還による知識創造と題して、小阪氏がこれまで歩んでこられて実体験をふまえた有益な内容であった。つまり、感性工学をビジネスに応用するための方法論をはじめとして、価値創造型の産業をビジネスでどのように支えていくのかといった視点に立った講演であった。たとえば、自動車の例でいえば、商品とは自動車そのものではなく、それにまつわるものすべてを含んでいる。もちろん、人間関係も含まれている。消費者の感性が低くなっている状況で、いかにしたらその感性を向上させることができるかといったことまで及んだ内容であった。特に、コアプロダクト(core product)の概念からホールプロダクト(whole product)の概念への転換は価値創造のできるビジネスへのアプローチであることは興味深い。

 加藤俊一氏の講演では、これまで加藤氏が提案してきた感性ロボティクスの話題を中心にして、主にITを使って楽しくなるシステム(人の感性に訴えるシステム)の作り方に関する内容であった。つまり人間の感じ方の仕組みを明らかにすることへのチャレンジである。具体的な感性を応用したシステム作りという意味では、工学的な要素と人文的な要素の交錯した幅の広い内容でもあった。

 坂井直樹氏の講演は、価値意識をいかにして持たせるかというEmotional Programに関するものであった。これは、その背後にあるデータベースに関するものであるが、約3万人の調査からなるブランドデータバンク(brand data bank)社で実際に行っている内容の紹介があった。つまり、消費者の顔が見えるマーケティング・ツールの紹介があり、多数の参加者の興味を誘っていたのは印象深かった。

 最後に、美記陽之介氏の講演は、日産自動車での感性工学を応用した商品開発に関する四つの事例が紹介された。まず、「事例1:広さ感評価」では、「広さ感=乗員の生存空間+動作のための余裕空間+フィーリング」として、広さ感の目標設定は、自動車の基本計画(サイズ、エンジン、室内レイアウト)に大きく影響され、設計の初期段階で実車の評価の予測の必要性について紹介された。次いで、「事例2:ステアリングホイールの触感評価」、「事例3:ドア開閉感」について紹介された。特に、ドア開閉システムは様々なファクターが係わり、それらの検証・評価の方法について紹介された。特に、ドア開閉のフィーリングは重要であるにもかかわらず後回しになりがちなことは印象に残った。最後に、「事例4:ナビの操作性・分かり易さ」について紹介された。その結果の中で、特に、ユーザのクラスター分析の結果として、積極活用型、運転不安型、熟練型、週末利用型があることは非常に興味深かった。

 最後に講演者全員によるパネル討論が行われ、会場からの質問に答えた。博士課程に在学する学生からの質問はパネラーに緊張感を走らせた。中でも小坂氏からの質疑応答は興味を引いた。価値創造型の産業は感性工学とイコールではない。たとえば、魚屋さんでサンマを買う場合、高い方のサンマを買う理由は何だろう? 高くてもそれだけ価値があり、その価値を説明できればよい。安いものを買う理由ははっきりしている。これに対して、20円高いサンマを買う理由はわからない。油がのって美味しいことをきちんと説明すれば客は高いサンマを買う、これが価値創造型の産業に結びつくのだという。

 以上、感性工学に焦点をあてた今回の横幹技術フォーラムは、参加にとって21世紀型の産業への扉を開く有益なものになったであろう。


 松浦 執 氏   

(東海大学、形の科学会))

 清水義雄氏の基調講演では、以下のような指摘がなされた。工業化社会で、人々は働いて「物」を生産し、収入を得て生活している。だが、見込み大量生産システムで、作り手と使い手が直接につながることは滅多にない。作り手は高機能化の競争に煽られて必死に開発や生産に追われ、金や物は流れるが人と人の関係は断ち切られる。蓄積する廃棄物、悪化する環境、そしてマネーマーケットの為替変動の前に、消費者にとっての物の真価が、かすんで行く。

 本フォーラムで明示された工業化社会の様々な問題、そして感性工学によるポスト工業化社会への転換の期待は、筆者の現在の主な仕事である大学での初等的な物理教育(e-ラーニング)の様々な側面にも強いインスピレーションを与えてくれた。技術者の立場が社会的な魅力にとぼしいことが、10代の若者たちの理科学習や理系進学意欲の低い原因の一つだとされている。優れた物が売れないのは、物が、そのままでは価値創造された状態ではないからだ。それによってどんな問題の解決、どんなライフスタイルの転換や充実が得られ、どんな感性的成長、脳の喜びが得られるのかが伝わって初めて、利用者はその価値に気付くという。小阪祐司氏は、ワクワクさせるビジネスの伝道において、消費者は指摘されることで感性が高まり、必要なものを見極められるようになると主張された。

 大学教育もいまや、個別の対応、個別の診断的処方、飲み込みやすくする徹底的な工夫や様々なメディアによる刺激、そして協調学習による学習の活性化など、インタフェースにおいてかなり努力されている。小阪氏が具体例を挙げて説かれた価値創造の作業を大学も意欲的に行っているようだが、もしかすると、FD(Faculty Development、大学教育の質的向上)活動の流れに追い立てられての事かもしれない。清水氏が述べられた、マネーマーケットの論理におびえながら目先の技術的要件を追いかけるものづくりの姿と、少子化や既存の大学のブランドイメージに無力感を覚えながら、度重なる「改革」にあえぐ我々の姿が少しダブって見えるようだ。

 学生にとっては、教員とのつながりが目的ではなく、学んでいる知識の体系につながることが肝心だ。さらに、知識を通じてその先に広がる現実の世の中につながることや、人と物の真価、人と様々の環境との相互作用を強めることが、学ぶ本来の目的である。指摘されれば消費者の感性が高まるように、若者もやがて学ぶことに心から価値を感じ、学んで成長するプロセスに脳の喜びを感じる事だろう。われわれ教員は、不注意のうちにこの本来求めるべきつながり、若者の学ぶ姿勢や成長する喜びを分断してしまわないか、反省する必要があるだろう。

 フォーラムをオーガナイズされた大倉典子氏(芝浦工業大学)も、ワクワクするという表現で、目指すべきつながりを実感的に表現された。これからの教育や産業、そして我々の暮らしがワクワクするものになる知恵が、今後も数多く感性工学から生み出されてゆくだろう。


第11回横幹技術フォーラム 参加レポート

テーマ:「安全安心システム実現への挑戦
〜安全・安心:地震からプラント、航空機まで〜」
日時:2006年5月16日
会場:学士会館 210号室(東京・神保町)
主催:横幹技術協議会、横幹連合

 山本 美行 氏   

 (東芝ITコントロールシステム(株)、計測自動制御学会)

 5月16日に行われた第11回横幹技術フォーラム「安全安心システム実現への挑戦」を聴講したので報告したい。
 去る4月24日、JRの山手線と埼京線が線路の湾曲によって終日運休したこともその例に挙げられるだろうが、最近の事故には、大規模化や復旧時間の長期化の傾向があるように感じられる。また、筆者の担当しているプロセス産業向けの監視制御システムについても自動化や高機能化が進み、安全システムの高度化に対する要望がさらに高まっている。こうした背景から、今回のフォーラムには、安全という視点からの産業界の動向や関連規格の現状などを理解するために参加した。

 今回は基調講演を含めて4件の発表があり、安全工学の現状と取り組むべき今後の課題について、そして、地震速報のIT自動防災システムや、プラントの安全計装システム、航空機コックピットのディスプレイシステムの安全に対する取り組みなどに関して、ビデオや実機デモを交えた説明が行なわれた。

 清水久二先生は基調講演で、日本の安全工学への取り組みが遅れていることを指摘され、今後の安全解析者の育成と、分かりやすい教育理論の確立が急務であることを提言された。国際会議や安全性実験のビデオを織り交ぜながらの説明は非常に興味深く、我々の安全に対する関心の低さを痛感させられた。
 杉原義得氏(JEITA)からは、「IT自動防災システム」という、インターネット網と最新の情報家電技術を活用した画期的な地震対策システムが紹介された。地震によるP波とS波の伝播速度の違いに着目し、大被害をもたらすS波到着までに事前災害対策を行うというもので、約10秒前に地震の発生を知らせ、ガス元栓の遮断、非難口の確保、誘導灯を点灯するなどを自動的に行う実証実験について、実機のデモを含めた説明が行なわれた。

 赤井 創氏(横河電機)からは、大規模化するプラント災害の実例の紹介と、システムの高度化に対応して監視制御システムが装備すべき安全機能、そしてそれを満たす自社製品の紹介が、国際規格の動向(IEC61508/IEC61511等)の説明を背景に行われた。
 また、鳥居 誠氏(横河電機)からは、航空機コックピットディスプレイにおける監視システム構築の高度化について、機器の進歩と信頼性確保という観点から、エアバスA320などの豊富な写真による比較を織り交ぜてわかりやすく説明された。安全と真摯に対峙している講師陣の姿勢と取り組みの深さを実感でき、参加者も満足している様子であった。

 総合討論において講師から強調されたことは、安全はハードウェアの信頼性と人間の感性(ヒューマンエラー等)の掛け算であり、この両者をいかに協調させていくかが今後の課題だということだ。パニックになるだけで操作する人のPFD(作動要求1回あたりの安全計装システムの失敗確率)が10倍に跳ね上がる、といった発言もあった。さらに、退職を控えたベテランの体得する安全知識は、2007年問題として一括りに体系的なデータベースとして残すだけではなく、これからの技術者に技術継承していくことも是非検討して頂きたいものである。

 今回も、参加者は50名を超え、講演に対する質問や提言等の質疑応答も活発に行なわれ、有意義な技術情報が得られた。安全工学に関して国内外の現状を理解する良い機会となったと思う。
 横幹技術フォーラムのテーマとしては、リスク(第9回)や感性工学(第10回)、そして今回の安全(第11回)など、数値による評価が難しい技術を取り上げて頂いている。今後もこのようなテーマに対する取り組みの継続を、期待している。