横幹連合ニュースレター
No.017, Apr 2009

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
直接見えないものの重要性と
その認知に向けて
原 辰次
会誌「横幹」編集委員会委員長
東京大学

■活動紹介■
【参加レポート】
●第18回横幹技術フォーラム
●横幹連合・統数所・産総研
合同ワークショップ

■参加学会の横顔■
●研究・技術計画学会

■イベント紹介■
●第20回横幹技術フォーラム

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.017 Apr 2009

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、研究・技術計画学会をご紹介します。
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研究・技術計画学会

ホームページ: http://wwwsoc.nii.ac.jp/jssprm/

会長 武田康嗣

(日立工機株式会社名誉相談役)

  【科学技術の経営と政策の学際研究】

 科学技術は、企業、地域、国および人類社会発展の基盤となっています。科学技術を、いかに経済・社会・文化の発展に役立てるか、そのための研究開発や科学技術のマネジメントは、国の政策や企業の経営において、最も重要な課題の一つです。既に我が国は、キャッチアップ型からフロントランナー型への転換を終え、自らの発想で未踏の領域を切り拓く段階に達しました。創造性をはぐくみ、効果的に研究や技術開発さらにはイノベーションを進め、かつ人間・社会・自然と調和した独創的な科学技術体系を築きあげる必要があるのです。
 そのためには、創造的な環境や組織制度を経験的に整備するだけではなく、科学技術や研究の開発過程の本質を、計画者の視角から追究し、理論化して、その学問的に整理された体系を基盤とし、それらを実践的に改善していくことが重要です。
 そこで、科学技術とイノベーションにかかる実務的学際研究と情報交換を行うために、1985年に当学会が設立されました。日本を代表する科学技術政策関連学会として、他に例を見ない産官学の出会いの場を提供しています。
 本学会の課題には、企業・大学・国公立研究機関の課題から、地域・国・国際レベルの課題までが広く含まれおり、ディシプリン・オリエンテッドではなくミッション・オリエンテッドな学会として、解決を図ろうとしています。大学に所属する研究者のみならず、高度な実務者が多数在籍していることも特徴です。
 この学会について、会長の武田康嗣先生にお話を伺いました。

Q 2008年度横幹連合定時総 会では、初代会長吉川弘之先生の特別講演で、「研究(開発)過程を論理的に見直す事」の重要さが改めて指摘されています。また、産業技術総合研究所でも、そうした「プロセス」を主に考察する『Synthesiology』誌が刊行され始めています。
 ところで、研究開発や科学技術におけるマネジメントを、学会の重要な課題として、早くも85年から進めておられる本学会の存在が、参加学会の中でも目を引きました。学会誌の掲載論文のタイトルを拝見しただけでも、諸外国の国家レベルでの科学技術支援の動向をいち早く調査されたり、その折々の重要課題をその分野の第一線の方々が執筆しておられるなど、広域的・学際的なテーマや政策課題の論文が目を引きます。また、その扱う領域が非常に広いことから、通時的には、8つの分科会が、概念の整備と方法論の構築のハブ(中核)となっておられるようです。
 さて、他の学会の皆さまに対しては、本学会を「どんなことをしている学会です」と紹介しておられますでしょうか。
武田会長  科学技術創造立国を目指す我が国にあっては、政府、独立行政法人、民間が、それぞれ研究・技術に「投資をし続ける」ことが重要であるのは、万民の認めるところでしょう。しかし、その投資対象についての優先順位ですとか、投資とリターンの関係、さらに将来計画の妥当性などについての、客観的、理論的、さらに、定量的な根拠に基づく(evidence-based)考察は、残念ながら不十分であるのが現実です。その結果としては、研究・技術への投資についての説明責任が十分には果たせなかったり、一般社会(民間企業にあっては事業部門や経理部門)の支援や共感が得にくくなる一因ともなりかねません。また、より適切な投資の在り方を見出す努力も、不十分になるかも知れません。
 そこで、このような課題について、広く官、独法、民の問題意識を共有できる人たちが研究し、その成果の発表と議論を通じて考察を深めようとしているのが本学会です。
 長く日本が、米国に比べて5分の1程度の研究開発支援しかしてこなかったことを、当時の通産省大臣官房審議官の坂倉省吾氏や、科学技術政策研究所の総括主任研究官などを歴任された現東京大学名誉教授の平澤泠(ひらさわ・りょう)先生(現顧問)らが大きな問題であると感じられて、85年に本学会が設立されました。
 ここでは、次のような課題について研究が行われています。
1. 研究技術にかかわる企画、計画、マネジメント
2. 科学技術関連政策の策定、分析、評価
3. 研究技術の国際的戦略と経営
4. 企業戦略に連携した技術経営(MOT)
5. 公共技術、社会技術、戦略技術の選定
6. 科学技術の公共理解の増進
 これらの解明と解決には、企業、大学、国公立研究機関などの研究推進主体が互いに連携し、その成果を相互に交流し、活用しあうことが大切です。学会の個人会員としましては、「企業の技術経営者、技術企画管理スタッフ、研究開発マネジャー」、「国・公立研究機関の研究所長、スタッフ、マネージャー」、「大学やシンクタンクの研究者、研究指導者」、「研究開発推進団体の役員」、「科学技術ジャーナリスト」といった方々が、約1000名集っています。
 指摘されたとおり、年次シンポジウム(春)、年次学術大会(秋)、学会誌などでは、その折々の最重要のテーマが議論されておりますが、概念の整備と方法論の構築、また新たな課題の発見のために、分科会が積極的に活動しています。(科学技術政策分科会、国際問題分科会、人材問題分科会、研究評価分科会、研究行動・研究組織分科会、科学技術経営分科会、技術経営分科会、地域科学技術政策分科会、イノベーション交流分科会の9つです。)また、関西支部も、積極的に活躍しています。
 このように、産・官・学の学識経験者や実務家などが広く交流し、啓発しあうことのできる「新しい場」を提供しているのが本学会です。

Q  武田康嗣会長が、本学会の会員になられた経緯やご経歴などから、本学会をご紹介下さい。
武田会長    私は日立製作所の中央研究所で、オプト・エレクトロニクス分野の研究をしていました。82年に中央研究所長となり、先に挙げた坂倉省吾氏からの要請を受けて本学会の設立に参加し、しばらく理事を務めました。そうした経緯から、今回会長に推されました。  89年から日立本社で研究開発担当の常務取締役となり、適切な研究開発の動機付けが目に見えて社員のモティベーションを向上させることを実感していました。ところで、99年に、当時は経営危機の状態にあった日立工機(株)の社長として、経営の立て直しに大変な苦労をすることになりましたが、このとき得がたい経験をすることにもなります。結果的には、会社のPBR(株価純資産倍率。1より高い場合には、成長性が見込まれて会社の解散価値より高く株価が取引されていると言われる。1より低い場合はその逆)が当時0.25 しかなかったのを、1.0 近くにまで増やしました。後継社長がさらに努力して、およそ2.0位まで増やしました。
 経営は、人・金・モノを活性化することです。そして、これは前会長の児玉文雄先生も、そのように言っておられたことなのですが、MOT(Management Of Technology 、技術経営)は、CTO(最高技術責任者)の仕事であるばかりでなく、CEO(最高経営責任者)の仕事だということなのです。つまり、戦略的に研究開発投資を会社経営の根幹に位置づけることができるのは社長の役割で、こうした経営が社員のモティベーションをポジティブに向上させるという事実を、このとき本当に実感しました。本学会が研究を進めているような方法論が、実際に企業を立て直し、企業価値を高めた実例とも言えるのかもしれません。
 ところで、日立工機の社長になる直前の95年に、「科学技術基本法」が制定されたのですが、その法律に基づいて、本学会の活動にも大きく関係する「第一期科学技術基本計画」(我が国全体の科学技術振興に関する施策の根幹となる5年間の計画)が、96年に閣議決定されました。私は、経団連の産業技術委員会戦略部会長でもあったことから、その策定委員を勤めました。
 ご承知の通り、この基本計画が背景となって、01年から内閣総理大臣が議長を務める「総合科学技術会議」が発足しています。「総合科学技術会議」では、①科学技術に関する基本的な政策についての調査審議、②科学技術予算・人材の資源配分などについての調査審議、③国家的に重要な研究開発の評価などを行っています。(この設立に尽力された尾身幸次氏は、第1次小泉内閣で科学技術政策担当大臣をされました。)今日からふりかえってみれば科学技術基本法が最初に提唱された63年には、今考えれば大変幼稚な反対にさらされていたわけですが、「科学技術基本法」と「科学技術基本計画」が科学技術の振興に大変な役割を果たしてきたことは、今では誰の目にも明らかであると思われます。
 また、日立工機の立て直しを経験した私の目からも、産・官・学の交流にもとづいた定量的な根拠に基づく政策決定という手法は、日本全体の研究投資戦略にも適応できて、日本の研究者に強い動機付けができると考えています。

Q  これからの学会の方向について、お考えをお聞かせ下さい。
武田会長  これについては、私見も交えますが5つの方向を挙げてみたいと思います。

1)研究技術が日本の発展のよりどころであるとして、国による投資が続けられています。
 ところで、これまでの3回の科学技術基本計画に基づく投資では、それぞれ17兆円、24兆円、25兆円が投じられました。15年間で、60兆円です。この大きな額の投資に対する効果については、国は国民への説明責任があり、説明に努力する必要があります。それがさらに次の計画の予算獲得へとつながります。
 その説明のよりどころとしての資料づくりに、本学会が貢献できればと考えています。

2)先に私の経験を述べましたが、製造業のCEOが、研究開発投資を強化して企業をポジティブに発展させることができます。このときの、よりどころとなる指標、経験則、提言を、学会が提供できればと考えています。
 ただ、昨年秋の年次大会に参加して、残念ながら企業からの発表が少ないと感じました。守秘義務があるとは言っても(守秘義務などは昔からあったので)現役の管理者でもご体験を抽象化して、発表はできるはずです。さらに、企業のOBやアウトサイダーなど含めて、多くの事例を発表して欲しいと思いました。

3)20世紀のイノベーションは、科学技術の発展が市場原理をレバレッジ(てこの支点)に行われてきました。しかし21世紀において期待されるイノベーションを、市場原理に任せていては難しいでしょう。なぜならば、地球規模の課題の解決が求められているからです。社会システムの改革が伴なわなければ、なりません。実現したいイノベーションのシナリオを検討し、提言することも大切です。

4)また、昨年秋の年次大会では、IEEE TMC(Technology Management Council )との共催ワークショップを行って非常に活気がありました。方法論は学ぶだけではなく、日本独自の方法論をこうした機会に世界に向けて発信することも大切です。
 これまでの日本は、諸外国を見習ってきたような傾向もありますが、昨年秋に顕在化した米国の経済危機によって、米国流のやり方が参考にできないことも明らかになりました。日本の企業経営にも、たしかに悪い面があると思います。保守的である、出るくいは打たれる、などです。
 しかし、良い面もあって、従業員のモティベーションや教育を大切にすることなどは、日本的な経営の特色です。このような日本独自の経営手法や技術経営(MOT)の方法論の研究を推進して、世界へ発信してゆきたいと考えています。

5)地球環境の危機といった命題に関しては、イノベーションにブレークスルーが必要です。ブレークスルーの一つの形態として、ベンチャーが重要であると思われます。
 考えてみれば、GoogleもYahoo!もベンチャー企業でしたし、そもそもインターネット上の企業の多くが、もとはベンチャーです。軍事のARPAネットが、ゴア副大統領の助力(国家の援助)などで、国家による情報インフラの中心網(「全米情報基盤」)として位置づけられ、インターネットとしてブレークスルーしたように、イノベーションは個人の力で行われますが、国や社会の後押しも必要であると考えます。
 そうした文脈から、09年3月に経団連会館で行われた、JSTシンポジウム「新時代の科学技術外交」は、非常に重要なシンポジウムでした。「科学技術外交」という表現は、08年5 月に「総合科学技術会議」がその報告書の中で公式に使い始めました。その全体像について、共通認識を確立しようという国家的な課題を論じることがその内容で、本学会の関係者も多数参加しておりました。
 これからも本学会は、産・官・学の出会いの場として、科学技術とイノベーションにかかる実務的学際研究と情報交換を推進して行きたいと考えています。

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