横幹連合ニュースレター
No.027 Oct 2011

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
「サービスサイエンス

横断型科学技術」
*
横幹連合理事
北陸先端科学技術大学院大学
知識科学研究科長
小坂 満隆

■活動紹介■
●第31回横幹技術フォーラム

■参加学会の横顔■
●日本品質管理学会

■イベント紹介■
●第4回横幹連合コンファレンス
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.027 Oct 2011

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、日本品質管理学会をご紹介します。
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日本品質管理学会

ホームページ: http://www.jsqc.org/

会長 鈴木 和幸 氏

(電気通信大学 教授)

 
【品質の確保・展開・創造】

 日本の製品は、その品質の高さで世界に確固たる地位を築いてきました。その背景には、我が国の産学協同による品質改善・生産性向上など、品質管理への、あくなき努力のあったことが、内外から高く評価されております。
 本学会は、品質管理の一層の発展と学理の探求をめざして、1970年(昭和45年)に設立されました。会員には、学界で品質管理について研究する方ばかりでなく、実務で品質保証・品質管理にたずさわる方々を始めとして、産業界の企画、開発、設計、販売など、種々の職種の方々が数多く入会されています。本学会では、機関誌や各種行事を通じて、これら広範な会員の皆さんに、研鑽ならびに交流の場を提供しています。
 社会構造、産業構造が大きく変わろうとしている現在、品質に対する社会の関心と期待は、益々、強くなってきています。本学会は、大きく変化する社会、企業環境に対応し、品質管理の先達として、この期待に応えたいと考えております。そのために、これまでにも増して、先端分野、新しい技術・手法の研究開発の推進に寄与すると共に、TQC(Total Quality Control、体系化された全社的な品質管理手法とその実践)からTQM(総合的品質管理、後述)への変革を見据え、得られた成果を産業界に広く普及させる橋渡しとしての役割を明確にした学会運営を行っています。
 本学会につきまして、会長の鈴木和幸先生にお話を伺いました。

Q1:鈴木会長は、本学会を非会員にご紹介されますとき、どんな風に説明をしておられますか。

鈴木会長:  日本品質管理学会は、1970年11月18日に創立されました。第1回の総会(注1)が翌年4月24日に開催されて、本年度には40周年を迎えました。学会の目的は、「会員の研究発表、知識の交換、ならびに、会員相互間および内外関連機関との連絡提携の場となり、品質管理に関する科学・技術の進歩、発展に寄与する」ことです。品質管理についての学識、または経験のある方、および品質管理に密接な関係のある方を会員として、品質管理に関する学術をより深く研究し、より広く普及する機関として誕生致しました。
 本学会の特徴は、産と学との連携による協同活動という点にあります。即ち、産のベストプラクティス(実務における最優良の成果)や問題について、学が解決・理論構築を行い、さらに、これらの体系化を図ることで、全産業にそれを広めて参りました。このように、常にある社会・産業構造の変化に対応すべく、産学協同で品質を管理・向上させるために本学会は歩んできました。
 また、そのために、本学会の会長は産と学との持ち回りで担当し、産の歴代の会長には、豊田章一郎氏、石橋幹一郎氏、直近では桜井正光氏(経済同友会会長)、学の会長には、森口繁一氏、奥野忠一氏、狩野紀昭氏らがいらっしゃいます。本年11月よりは、現コマツ会長の坂根正弘氏(経団連副会長)が会長となります。

 本学会の活動としましては、
・年次大会、シンポジウム、研究発表会、ANQ Congress(アジア品質ネットワーク国際会議の共催)、クオリティパブ(サロン形式でゲストスピーカーの話を聴く会)、ワークショップ、事業所見学会、ヤング・サマー・セミナー(若手会員の親睦勉強会)や関連学会との共催行事など、各種イベントの積極的展開と学術・産業共同化推進のための支援、
・学会誌「品質」(年4回)「JSQCニューズ」(年8回)などの発行や、 研究会活動(注2)による研究開発支援の強化、
・学会の広報活動、などを積極的に行っております。

(注1)戦後の日本の品質管理の普及・啓蒙・推進は、北川敏男、河田龍夫、増山元三郎の諸先覚者に続いて、朝香鐵一・石川馨・水野滋・木暮正夫という第一世代の品質管理の指導者の先生方を中心に進められ、更に、日本科学技術連盟(日科技連、デミング賞委員会を1951年から支援)、日本規格協会(1954年設立)などの団体の支援によって、成功裏に進展していた。60年代に入ってからのTQCの始まりや、1969年10月に世界初の品質管理国際会議(ICQC'69 Tokyo)が開催されたことなど、環境条件が変化したことを受けて、本学会が設立されることとなった。設立実行委員会の委員長、副委員長としては、 水野滋氏(東京理科大学)、石川馨氏(東京大学)が尽力され、1970年の第1回総会で、原安三郎氏(日本化薬)が会長に選出された。同総会には、特別講演として、山口襄氏の「品質管理の25年をかえりみて」と題する講演と、水野滋氏の「品質管理の現状と将来」と題する講演の二つが行われた。ちなみに山口襄氏は、デミング賞本賞の受賞者で、元東芝製造部長。1958年に、品質管理専門視察団が渡米した際の団長でもあった。また、第1回総会で、数十通の祝電が披露され、アメリカ品質管理協会(ASQC)、欧州品質管理機構(EOQC)、台湾、韓国、ソ連などの関連学会からの祝電も披露されている。(以上は、鈴木会長談と、本学会刊「十五年のあゆみ」に掲載された小浦孝三氏「(社)日本品質管理学会設立のいきさつ」などに基づく。)(注釈の文責編集室。以下同じ。)

(注2)現在行われている研究会活動は次の通り。テクノメトリックス研究会(1994~、山田秀主査、因果推論の品質管理への応用、主変数法など結果変数の選択問題などの研究を行う)。医療経営の総合的「質」研究会(2000~、永井庸次主査)。信頼性・安全性計画研究会(2006~、伊藤誠主査)。サービス産業における顧客価値創造研究会(2007~、石川朋雄主査)。統計・データの質マネジメント研究会(2010~、椿広計主査)。


Q2:鈴木会長のご研究の概要と、現在関心をお持ちの内容をご説明下さい。また、鈴木会長は、どんなきっかけで、この学会に入会されたのでしょう。

鈴木会長:  品質管理と信頼性には密接な関係があり、私は主に、信頼性と安全性に関する研究テーマに取り組んでおります。信頼性と安全性については、それを「固有技術」と「マネジメント技術」と「人材」によって、どのようにつくり込むか、が課題になります。この三つを束ねるものが、日本が生み出した総合的品質管理TQM(Total Quality Management)、すなわち、「全部門・全階層の参加の下に、品質管理手法を駆使して、経営環境の変化に適応した効果的・効率的な組織運営を実現する方法」であると考えています。このスタンスに立って、私は信頼性の研究を行っています。
 信頼性の研究では、まず製品の長寿命化を目指す「耐久性」、そして、予防保全と事後保全からなる「保全性」が重要です。また、次の二つは「設計信頼性」と呼ばれますが、故障したときに安全を保つ方向に壊れるフェールセーフ、そして、(そもそもエラーを起こすことができない仕組みを工夫して)人間のエラーを未然に防止するエラープルーフ。以上の三つの分野を中心に、研究をしてきました。
 故障の背景にはストレスが存在し、必ず物理的・化学的な変化が起こっています。これを、「故障メカニズム」と呼び、この情報を組織知とすることが肝要です。また、「故障」と「故障モード」をきちんと区別して考えることが重要です。故障に際しては、故障モード(故障をもたらす劣化や摩耗、断線などの分類可能な不具合事象)が故障の前に現れているはずです。大事な点は、この故障モードは製品の種類によらず、数が限定され、抽出しやすいということです。また、予測に基づく未然防止という視点からは、故障モードを活用したFMEA(Failure Mode and Effect Analysis、故障モードとその影響の解析)が効果的な分析方法になります。
 「保全性」については、特に「状態監視保全」をこれまで研究してきました。製品の性能劣化情報をモニタリングする遠隔診断システムなどが、その例です。具体的には、センサー技術とインターネットやGPS(衛星測位システム)などのICT(情報通信技術)を組み合わせる、遠隔状態監視技術による次世代信頼性・安全性システムの構築を目指しています。



 すでに、一部の活用が、企業などで始まっていますが、このシステムが本格的に構築できれば、全世界が信頼性の試験の場に代わります。全世界の個々の製品の使用・環境条件、性能、劣化、顧客情報がリアルタイムで入手できますから、これらの製品の情報と、先に述べた故障メカニズムのデータベースを結合(同化)することが可能になります。実際の市場データを活用することによって、信頼性設計・評価の精度を格段に向上させることができるのです。
 このように、製品一台一台への余命予測精度を向上できることで、こうしたシステムでは、効果的な予防保全活動が可能になるなど、社会の安心・安全に寄与することができると考えています。
 また、当然ながら、遠隔での操作が可能であれば、ソフトのバグも世界同時に修正ができたり、ユーザの誤使用に対しても、瞬時にユーザに注意を喚起したり、エラープルーフが起動できるようになるのです。
 エラーや失敗は、誰でもします。しかし、そのエラーや失敗が、トラブルに結びついてはいけません。エラーや失敗は防げないけれども、トラブルは防げるようにする。そのために、フェールセーフ、エラープルーフを考えなければなりません。これらが「設計信頼性」における、私の研究テーマです。
 ところで、私がこの学会に入会した理由は、学生時代の恩師、信頼性分野の大家でいらっしゃる真壁肇先生(東京工業大学名誉教授)、品質管理分野の狩野紀昭先生(東京理科大学名誉教授)が当学会を中心に、ご活躍されていたためです。「状態監視保全」については、私の学生時代以来のテーマということになります。

Q3:今後の本学会の向かわれる方向について、お尋ねしたいのですが。

鈴木会長:  学会として非常に重要で、私も積極的に推進してきた方向が三つあります。
 一番目は、電力・運輸・水道などの社会インフラについて、品質・安全性向上を図ることです。これは、本年3月の震災によって、その重要性を誰もが認識するところとなりました。
 特に、本学会では、日本原子力学会、経済産業省原子力安全・保安院、東京大学原子力国際専攻COEと協力して、震災以前の2007年3月から、定期的に、「原子力の安全管理と社会環境」に関するワークショップを開催して参りました(注3)。しかし、今回の震災により甚大な被害が生じたことは、誠に残念に思っています。

 二番目は、問題解決型の統計教育が、日本では、まだまだ不足していることです。
 2009年7月に、小中高の算数・数学の学習指導要領が改訂され、統計の内容に関する単元が小1から高1までの全学年に入りました。生徒自らが、①データにより現状をとらえ、②因果を究め、③その原因への対策を行うこと、の3点が「統計的問題解決」として、小中高の授業で行われることを期待しています。問題解決型の統計の授業は、これまで日本では、ごく限られた機会にしか行われていませんでした。そのため、指導要領の改訂によってこれらが必修となりましたが、教育委員会や小中高の現場の先生方は、何をどのように教えれば良いのかに不安を持っている、との調査結果もあります。事実、海外ではイギリスを始め、カナダ、アメリカ、ニュージーランドにおいて、我が国の産業界から学んだ問題解決型の統計教育が普及しています。これらに比べ我が国の初等中等教育では、大分遅れをとってしまいました(注4)。
 このような問題解決の技法は、まさに日本のQC界が戦後60年に渡って行ってきた、データに語らせる「事実に基づく管理」そのものです。若い世代の理工系離れが増える現状において、しっかりとした統計教育を小中高の段階で行うことは、ひいては、技術立国日本を支え、日本の将来を担う人材の育成につながることが期待されます。そこで、本学会としても何かしらの支援が出来ないかと考えて特別委員会を設け、活動を行って参りました。
 他者から与えられる数字を頭から信用するのではなく、自分でデータをとる習慣を身につける教育。データに基づいた論理的な思考をするように若い方々の問題解決力を養い、受験のための統計の授業ではなく、社会に貢献する初等中等統計教育を実現するためにも、産業界、特に品質管理分野からの、統計的手法の活用事例の紹介といった支援が必須になることと存じます。

 三番目は、経済のグローバル化や新興国の急成長といった経営を取り巻く環境の大きな変化によって、モノづくりにおける種々の変化が生じていることへの、学会としての対応です。このために、次のような課題についての検討が迫られております。

課題1: 予測に基づくトラブルの未然防止法
課題2: 万が一、トラブルが生じたときの、クライシスマネジメントの体系化
課題3: グローバルな生産下での、多企業連結型QA(Quality assurance、品質保証)
               の体系の構築
課題4: 厳しい価格競争下での、信頼性・安全性の作り込み
課題5: 固有の信頼性・安全性と、運用における信頼性・安全性のギャップの克服

 企業間の競争は「魅力的品質」について行い、「当り前品質」である「信頼性」については、企業を越えて業界全体の協同で作り込むことが必要です。それらの成果は、人類全ての財産として活用されることが望ましいと思われます。
 以上の三点は、果たすべき最重要事項です。本学会は、大きく変化する社会・企業環境に対応して、品質管理の先達として、得られた成果を産業界に広く普及させる橋渡しとしての役割を果たして行きたいと考えております。

(注3)最近には、9月14日に、第10回「原子力の安全管理と社会環境-ヒヤリ・ハットと危険予知-」と題するワークショップが行われた。
 http://www.jsqc.org/q/news/events/index.html#110914

(注4)日本が経済的な絶頂期にあった1989年、 米国の製造業復活のための処方せんとして、マサチューセッツ工科大のリチャード・K・レスター教授らのプロジェクトチームが「Made in America―アメリカ再生のための米日欧産業比較」(邦訳草思社刊)を書いた。同書では、「在庫管理や品質改善などを日本から学ぶこと」「標準品を低コストで大量に生産するシステムから撤退すること」などが指摘された。この指摘に沿って、1992年、アメリカ労働省が「SCANSレポート」の中に、今後50年、産業構造がどんなに変化しても必要になる職業能力を「基礎力」として、小学校教育から取り入れることを提言した。
 http://www.innovativeeducation.com/tracs/scans.htm
 イギリスでは、1997年に「Dearingレポート」が、同様の教育改革を提言している。また、ニュージーランドでは「日本発の統計的課題解決プロセス」として、PPDACサイクル(Problem, Plan, Data, Analysis, Conclusion)の教育を行っている。すなわち、「QCストーリー的問題解決法」に沿って、「抱える問題の発掘(目標の設定)→現状のデータの把握と原因究明(解析)→解決策の立案→実施後の結論(確認・歯止め)と次のステップへの展開」を考えることを、小中高の生徒に身に着けさせている。
 他方、日本では、1992年度以降に「ゆとり教育」が強調されるようになり、2009年度まで統計ならびに問題解決に関する項目は皆無に等しい状況であった。「パレート図」の説明は教科書から省かれ、特性要因図については指導要領に入っていない。

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