横幹連合ニュースレター
No.019, Oct 2009

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
新たな科学革命の必然を主張し、その到来に備えよう
出口光一郎
横幹連合理事
東北大学

■活動紹介■
●第20回横幹技術フォーラム

■参加学会の横顔■
●スケジューリング学会

■イベント紹介■
●第23回横幹技術フォーラム
●第3回横幹連合コンファレンス
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.019 Oct 2009

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、スケジューリング学会をご紹介します。
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スケジューリング学会

ホームページ: http://www.sche-socie.jp/

会長 長谷部伸治

(京都大学 教授)

 
【プランニングとスケジューリングでIT時代の生産 革新】

 スケジューリングに関する研究は長い歴史を持っているのですが、実際の現場では主に経験則が利用され、理論的成果の応用は一部の産業に限定されていました。その主な理由としては、理論や手法の未成熟、コンピュータやネットワークなどの計算・通信環境の不備、現実のスケジューリング問題の定式化の難しさなどが挙げられます。しかし、近年のコンピュータやネットワークの低価格化、性能の向上に加え、数理計画法、シミュレーション、人工知能、制約論理、メタヒューリスティックスなどのスケジューリングに役立つ手法、並びにそれらを利用したツールが開発されたことで、現在では様々なスケジューリング問題の解決が可能になってきました。
 本学会は、「生産スケジューリング」に主として係わってきた研究者・技術者が中心となり、スケジューリングの理論と応用の両分野の研究者が一同に介して、これに関する問題を議論する場を提供する目的で1998年に設立されました。現在では、エンジニアリング、製造、輸送、ロジスティクスなどの「生産」に係わるスケジューリング問題のみならず、看護、教育、その他のサービスなど、スケジューリングに係わる問題全般を扱う学会となっています。また、会員も、数理計画の専門家から、ネットワークの研究者、各分野で応用研究を行う研究者まで、広範な分野の研究者からなり、各問題領域内の情報交換、異領域間の情報交換をもとに、スケジューリングならびにその関連分野の理論の発展と新手法の開発、実問題への応用をめざし、研究を進めています。
 この学会について、会長の長谷部伸治先生にお話を伺いました。

Q  長谷部会長は、本学会を非会員にご紹介されますときに、どんな風に説明しておられますでしょうか。
長谷部会長  「スケジューリング」とは、人間の活動や工業システムの操作において、その実施順序や実施時期を決めたり、その変化に応じて計画を修正したりすることです。これは、理論の有無にかかわらず社会や産業の様々な場面で行われてきた意志決定操作ですが、その良し悪しは消費エネルギー、資源の無駄遣いの多少、人々の満足度に大きく影響します。本学会は、スケジューリングの理論開発やそれぞれが専門とする対象の手法開発をめざす研究者が、お互いに情報を交換し、切磋琢磨できる環境を提供することを目的に設立されました。

 実は、学会が設立される以前の93年に、第1回「生産スケジューリング・シンポジウム」が開催されています。そのシンポジウムは、立ち見のセッションも出るほど盛況でした。これが起点となって、それまで異なった学会で活動してきた研究者・技術者が、スケジューリングという共通のテーマの下に結ばれ、知識を共有し、多様な経歴のメンバーからなる専門家集団が形成されるきっかけとなりました。その後、関連学会の持ち回りでシンポジウムが毎年行われることになり、第1回は日本機械学会の主催でしたが、翌年からは順に、日本OR学会、システム制御情報学会、日本経営工学会、人工知能学会の主催で開催され、生産スケジューリングに対する各方面の問題意識の高まりもあり、いずれのシンポジウムも成功裏に開催することができました。しかし、学会持ち回りと言うことで、参加者リストの引継ぎといった事務作業も、かなり大変でした。それで、青山学院大学黒田充先生(現名誉教授)らの、ひとかたならぬご尽力によって、98年に本学会が設立されることになりました。私も、その発起人の一人に加えていただいた次第です。

 本学会の会員の多くは、主として活動されている学会を別に持っておられます。ただ、それぞれの学会の中では「スケジューリング」に関心を持つ研究者の割合は、それほど多くはありません。しかし、本学会のシンポジウム・研究会では、スケジューリングについて話の分かる人たちが周囲におられるので、これはとても有難いのです。私は、スケジューリングの手法や理論を応用する立場ですけれど、新しい手法を開発することに関心がある研究者も会員におられますし、海外で開発された新しい手法もいち早く、シンポジウムなどの機会に知ることが出来ます。新たな手法は、実際に使ってみなければその本当の良さはわかりません。その点、適用結果の生の声を聞くことができるシンポジウムは非常に有益でした。また、当初は「生産プロセス」の研究会から始まった学会ですけれど、スケジューリング手法は、例えば看護の人員配置や時間割の作成など、全く異なった分野にも応用することができます。正に、横幹的手法を活用した研究が展開されてきた学会である、と言えると思います。
 スケジューリングの理論を研究している研究者にとっては、応用の場で新たな課題が見つかります。応用を主に考えている大学研究者にとっても、実際の企業でのスケジューリング問題とのギャップをシンポジウムで思い知らされます。このような機会があるということは、研究者にとって非常に有難いことです。また、国内だけでなく、海外の研究者・技術者と連携して共に学会の目的を実現することも、本学会の使命だと考えています。

Q  長谷部会長のご研究の概要を、ご説明下さい。また、会長はどんなきっかけで、この学会に入会されたのでしょう。
長谷部会長  私の主な参加学会は化学工学会で、私の専門は、化学プラントの最適な設計や制御問題を考えるプロセスシステム工学と呼ばれる分野です。化学プラントには、バッチ式に運転されるものも多くあります。このようなプラントでは生産する製品の順番を変えるだけで、品種の切り換えに要する時間やコストが大きく異なる場合があるのです。そのために「生産スケジューリング」に関する研究も、大学院生の頃から研究テーマとしておりました。黒田充先生の知己も得て、ごく自然に「この道一筋」のままに本学会に入りました。
 化学工学は、工業化学が「どんなものを作るか」を考えるのに対して、「どうやって作るか」を考える学問です。製品の製造工程を総合的に見て、最適な反応や分離の条件や手順を決め、それらを最適に運転するための手法を追求します。そのような特徴を持っていますので、卒業生は、化学メーカーに加え、エンジリング、鉄鋼、食品など、非常に広い分野に就職しています。スケジューリング学会との縁が自然に出来たという意味が、お分かり頂けたかと思います。

Q  今後の本学会の向かわれる方向について、お尋ねしたいのですが。
長谷部会長  スケジューリングに関する新しい最適化手法の開発に関しては、延びる余地がまだまだあると思っています。ただ、現実の制約とモデルとの間には未だ大きなギャップがあって、そもそも定式化が難しいという場合や、定式化されたものでも、それを使う人間が納得できない場合も多くあります。
 現実のシステムでは、経験のある人間が、そうしたギャップの「バッファー装置」としてシステムに組み込まれている場合も多くあります。その意味で、モデルの不完全性や与えられる情報の不確定性をどのように扱うかなど、研究の急がれる領域は非常に多いのです。
 また、先にも述べましたが、もとは生産プロセスを対象とした研究会から始まった学会でしたが、そこで開発された手法は、効率の良い看護師配置スケジュールなど異なった分野のスケジューリング問題にも活用することができます。手法の横幹的な適用が大変期待できる学問領域と言え、もっと多く研究者に参加いただけるよう会員増強に努めていきたいと思っています。
 私見ではありますが、これからスケジューリング学会として注力して行きたいことを、4つ挙げたいと思います。

1. 「スケジューリング・シンポジウム」は、本学会がスタートする原点となった大切な大会でもありますので、これを毎年確実に開催していきます。そして、大勢の研究者・技術者たちと創造的専門家集団として交流のできる環境を、醸成したいと思っています。ここに多くの研究者・技術者を集めることが、本学会の会員に対する最大のサービスであると考えています。
2. 2002年からほぼ隔年に行っています「スケジューリング国際シンポジウム」(日本機械学会との共催)を通じて、海外への情報発信と海外の情報収集の場を提供してまいります。今年の第4回も、成功裏に終えることができました。これからは特に、アジアとの接点が大切になるだろうと考えています。
3. 3つの学会合同の研究部会として「SCM時代の製造マネジメント研究部会」を、毎月、青山学院大学の会議室をお借りして続けています。
3つの学会とは、経営工学会、日本OR学会とスケジューリング学会です。当初、生産スケジューリング・シンポジウムが多学会合同の研究会から始まったことからも分かるように、異なった学会と共同で取り組む研究部会はスケジューリング学会の原点の勢いを継承している部会であるとも言えますので、大事に継続していきたいと考えています。また、この研究部会は企業関係者が参加しやすいよう、夜6時から開催するという方針で運営されています。どなたでも参加できますので、興味のある方は一度参加いただければと思います。(開催スケジュールは学会ホームページに掲示されます。)
4. 最後は学会ホームページの充実です。例えば、海外のスケジューリング関連学会の動向・日程といった内容を充実させてゆき、スケジューリングに関して会員が必要とする情報は、学会のホームページをみればすべて揃っている、というようにしていきたいと考えています。

 このように、スケジューリングと関連する問題に関する理論と技術の発展を通して、社会に貢献する創造的専門家集団であることを目指して活動していきたいと考えています。

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