第3代会長 出口光一郎 (東北大学)
横幹理念の実証のとき
横幹連合は発足以来8年目を迎えました。連合の創成にあたって知の細分化に抗することの重要性を唱えその道筋を導いて頂いた吉川弘之先生、異なる知の間の共通性を抽出するこ とを通して新しい知を創造することのできる学問の確立を知の統合として提唱された木村英紀先生の後をついで、この度、横幹連合の会長をお引き受けいたしました。
横幹連合は文理にわたる学会の集まりです。発足以来、40前後の学会の参加を得ています。横幹連合は、これらの学会の専門とする多様な分野を横断する基幹の科学技術が厳然と 存在すること、そして、複雑で多様化している人間・社会の諸問題への対処にはそれぞれの学会の専門分野として細分化された科学技術を、その横断型基幹科学技術を軸にして統合す る必要のあることを、世に訴えてきました。特にわが国では科学技術が過度に細分化されて、間口の広がった人間・社会の様々な課題に個別の科学技術では対応できなくなっています。 そのため分野を横断する取り組みが急務であることを、これまで横幹連合が発した各宣言、声明、横幹コンファレンス、横幹シンポジウム、調査研究会報告、横幹ロードマップ作成など のプロジェクトを通して例証し、その基盤となる科学技術の振興を図ってきました。
これらの訴えは、前2会長をはじめとする、横幹連合のメンバーの努力によって、ある程度、社会に認知されるまでになりました。しかしながら、実際に、日本の科学技術が、人間の 生存の複雑さ多様さ現代社会の複雑さ多様さに対応して公共に資することのできるまでの体制は出来上がっていないことも、指摘してきました。
この度の3月11日の大震災によって、この脆弱性が露呈され、我々の指摘と危惧がまさしく実証されてしまいました。このことは、誠に残念でなりません。
文理を横断する40学会の連合体である横幹連合は、この大震災によって明らかになった社会システムの脆弱さと対峙すべく、4月25日に、緊急シンポジウム「強靭な社会インフラの 再構築にむけて科学技術は何をなすべきか」を開催しました。そこでは、今回の災害により信頼性が大きく揺らいだ社会インフラを強靭なものへ再構築していくことに、横幹連合と 各会員学会が結束・連携して取り組んでいくこと確認しました。
横幹連合は、発足当初より、「ものつくりからコトつくりへ」、「要素からシステムへ」を提唱し1)、2)、複雑で多様化している人間・社会の諸問題への対処には細分化された 科学技術をシステムとして統合する必要のあることを訴え、そのためのシステム科学の振興を図ってきました。今、上記のシンポジウムでの討論を受け継ぎ、これらの主張を実現して 安心できる安全な社会のための強靭なインフラストラクチャの再構築に向けて、我々は大きな役割を担っていく必要があることを認識しています。横幹連合は、これまでの横幹理念の 主張を具体的に実践する時代に入りました。我々は、下記に基づく一歩踏み込んだ対応を、各会員学会の諸活動と連携して進めていく決意を固めました。皆様の賛同と結束しての活動 への参加を希望しております。
(1)人間の生存の複雑さ多様さ、現代社会の複雑さ多様さに対応して、科学技術を公共に資するためには、文理にわたる広範囲の科学技術をシステムとして統合されなければならない。 そのために、それらを普遍的合理的に解決するための知的基盤の創出を目指す。すなわち、異分野の研究者がそれぞれの専門の枠組みを基点に協働して取り組むオープンなプラット フォームを運用する、数理科学、シミュレーション技術、情報科学、統計学、心理学、経営学などを包含する横断型基幹科学技術としてのシステム科学の振興と発展を推進する。
(2)科学技術を社会インフラストラクチャ構築の基盤として統合するために、横幹連合は、社会的期待から発信した課題解決を指向する。その課題解決では、異分野、多様な機能の 統合に基づくとともに、過去の分析、現状、将来予測を結びつける時間的な統合を図る。また、不確かさに対するシナリオとリスク管理を確立して、科学的な定量化に基づく、全体最適化を重視していく。
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注: 1)「コトつくり長野宣言」(2005.11.25)、2)京都宣言「コトつくりによるイノベーションの推進」(2007.11.29)。いずれも、横幹連合ホームページ参照